iPhone XS/XS Maxで大きく進化したのがポートレートモードです。ニューラルエンジンとISPが人物の特徴を把握して背景と適切に分離することで、人物と背景の境界の処理がより自然で明瞭になったと感じました。髪の毛の周辺など、いくぶん甘さが見られることもありましたが、実用性は大きく増したと感じます。
ポートレートモードで撮影した写真の被写界深度をあとから変更し、背景のボケの表現を変えられる「深度コントロール機能」の追加も、iPhone XS/XS Maxの目玉的な機能といえます。写真アプリで右上の「編集」をタップすると写真の下にスライダーが現れ、F1.4~F16の間でボケの大きさを自由に調整できます。値を小さくするほどボケが大きくなり、大きくするとボケが小さくなる仕組みです。いかにも画像処理でボケを大きくしたという不自然さが感じられず、実際に絞りを変えて撮影したような描写が得られました。
驚いたのが、ある写真でF1.4にした際、写真の端にある点光源のぼけが真円ではなくレモンのような独特の形に変化したこと。これは、デジタル一眼用の交換レンズで見られる「口径食」と同じ表現であり、光学的な要因で発生する口径食をわざわざデジタル技術で再現していたのです。アップルは、デジタル一眼などの多くのレンズを研究し、光学的な効果をシミュレーションしてデジタル技術で再現できるようにしたといいます。
広角撮影と望遠撮影に強くなっていた!
米国で開催されたスペシャルイベントやアップルのWebサイトなどでも語られなかったiPhone XS/XS Maxのカメラ機能の密かな進化として、広角撮影と望遠撮影に強くなったことが挙げられます。
iPhone XSとiPhone Xで撮り比べていると、広角側カメラの焦点距離が従来の28mm相当から26mm相当(それぞれ35mm判換算)にワイド化されていたことが分かりました。数字の上ではわずか2mm相当の違いですが、広角側の2mmの差は大きな変化をもたらすため、後ろに下がって撮れない室内や風景撮影など、さまざまなシーンで広角化のメリットが感じられそうです。
逆に、望遠域をカバーするためのデジタルズームも着実な進化を遂げていました。これまで、デジタルズームを利用して撮影すると画像のジャギー(ギザギザ)が目立ったり、ジャギーを目立たなくする処理でぼやけた表現になってしまい、実用的に使うのは難しいと言わざるを得ませんでした。
ところが、iPhone XS/XS Maxは高度化されたニューラルエンジンによってデジタルズームの画像処理が改善されたようで、シャープさが大幅に高まりました。十分な光量のある日中ならば、5倍前後のデジタルズームは十分実用的に使えると感じます。前述のレンズの広角化と合わせ、35mm判換算で26~130mm相当の5倍ズームカメラとして使えるようになり、iPhoneの利用シーンが大幅に増えそうです。
長く使えるよき相棒となってくれそう
iPhone XS/XS Maxのカメラ機能は、「iPhoneを被写体に向けてシャッターを切るだけでよい」という簡単&シンプルなiPhoneの伝統を守りつつ、より好ましいと感じる写真や動画が得られるように進化していました。さらに、機械学習の技術を盛り込むことで、光学技術でしか得られなかった描写をデジタル技術で手に入れられるようになったのも注目できます。レンズの広角化という意外な改良がなされていたのも、日常的に使うカメラとしてはうれしいポイントだと感じました。外観をいたずらに変えずに中身をしっかり進化させた新iPhone、長く使えるよき相棒となってくれるでしょう。
(作例撮影:三井公一、磯修 モデル:有馬冬華)