「日本でもっとも多く使われているカメラ」になったアップルのiPhone。歴代の機種で画質や撮影機能を着実に向上させてきましたが、今回登場した「iPhone XS」と「iPhone XS Max」ではCPUに搭載したAI技術「ニューラルエンジン」や画像処理用チップ「ISP」の処理性能を高めることで、画質や撮影性能をワンランク引き上げたのが特徴です。さらに、アップルのWebサイトなどでは解説されていない意外な改良点も判明しました。
最新のデジタル技術がもたらす新しいiPhoneのカメラ機能の革新性や変化を、iPhonegrapherとして知られる三井公一カメラマンの協力を仰ぎつつ検証していきたいと思います。
周囲の状況によって表情を変えるゴールドモデル
2017年に登場した「iPhone X」と共通のスタイルを採用したiPhone XSとiPhone XS Max。デザイン面では新鮮さこそありませんが、iPhoneで最大となる6.5インチの有機ELパネルを採用するiPhone XS Maxの画面のインパクトと、新たに加わったゴールドモデルの存在が魅力的に感じました。これだけの大画面としつつ、本体サイズや重さはiPhone 8 Plusとほぼ同等に仕上げているのは評価できます。
ゴールドモデルは、iPhone 8/8 Plusのゴールドモデルよりも深みと色っぽさを感じさせる仕上がりになりました。周囲の写り込みが少なく平坦な印象を感じさせたiPhone 8/8 Plusに対し、iPhone XS/XS Maxは周囲の様子が豪快に写り込むため、状況に応じて表情をさまざまに変えるのが魅力的に感じます。側面のステンレスが深みのあるゴールドで彩られたことも、その印象をより高めてくれます。
精細感の向上に加え、好ましいと感じる色合いで撮れる
iPhone XS/XS Maxで大きな進化を遂げたのがカメラ機能です。進化の要となっているのが、iPhoneの頭脳といえるA12 Bionicと、A12 Bionicが内蔵するAI技術を用いたニューラルエンジン、さらに画像処理を担うISPの存在です。カメラがキャッチした映像をリアルタイムに解析することで、カメラ機能に多機能化や高画質化などのメリットをもたらしています。
なかでも、スマートHDRが新たに備わったことが、基本的な高画質化に大きく貢献しているといえます。スマートHDRは、カメラアプリを立ち上げている時は常に4コマ分の画像を高速で一時的に保存し続け、シャッタータイムラグの低減やダイナミックレンジの広い写真の生成に寄与します。さらに、8コマ分の画像のいいところをうまく合成することで、高感度撮影などで失われやすいディテールをよりしっかりと描写するような仕組みになっています。
実際に撮影してみると、単に精細感が高まっただけでなく、人物の肌の表現がより好ましくなったと感じさせました。iPhone Xでは、人物の肌がいくぶん黄色がかってマネキンのような印象を感じさせることもありましたが、iPhone XSではほのかに赤みが増して自然な肌の表現になりました。太陽光で照らされた屋外撮影だけでなく、人工照明で照らされた夜間でも人物の肌の表現は好ましいと感じることが増えています。人物の顔を認識した場合、何よりも優先して肌の表現を自然に仕上げるような処理がなされているとみられます。
オートホワイトバランス(AWB)の働きが改善されたとも感じます。これまで、LED電球などの人工照明下では色かぶりすることもありましたが、iPhone XS/XS Maxは色かぶりがだいぶ解消され、色合いが見た目の印象により近くなりました。白いものを白く補正しすぎるケースも見られましたが、飲食店で自撮りをしたり食べ物の写真を撮影する機会の多い人にとっては好ましい改良といえるでしょう。
歴代のiPhoneで撮影をしてきた三井公一カメラマンは、カメラ機能のレスポンスが向上したことを指摘しました。「カメラアプリは、起動や撮影のレスポンスが明らかによくなったと感じる。オートフォーカスの迷いも少なくなり、これまで以上にシャッターチャンスを逃さずに済むようになるだろう」と評価します。表現については、「いくぶん記憶色寄りの色再現になったと感じさせるシーンもあったが、ホワイトバランスがより的確になったことと、スキントーンの描写が向上したのは評価したい。何より、全体的にエッジが立った絵作りになったのは好ましい」とも述べました。