「eスポーツも、子どもたちが憧れるような存在になってほしいですね」

そう話すのは、元サッカー日本代表の前園真聖さん。現役引退後にはサッカー解説者として活躍するだけでなく、男子プロバスケットボール「B.LEAGUE」の特命広報部長に就任するなど、リアルスポーツの発展に尽力していることで有名だ。

  • 元サッカー日本代表の前園真聖さん

前園さんは、2018年9月6日に開催されたバスケットボールゲーム『NBA 2K19』の発売記念イベントにおいて、ゲストとして登場。今回、同作のアンバサダーに就任し、動画企画などに挑戦していくのだという。

NBA 2Kは、アメリカのプロバスケットボールリーグNBAが運営している公式eスポーツリーグ「NBA 2K League」でも採用されているタイトルだ。そこで、これまでリアルスポーツの道を歩いてきた前園さんに「eスポーツについてどう感じているのか」という質問をぶつけてみた。

  • イベントにおいて、『NBA 2K19』シリーズのシニアプロデューサー Erick Boenisch(エリック・ベニッシュ)氏が見守るなか、ゲームをプレイする前園さん

eスポーツの競技性はスポーツに近い

「現役時代は、代表戦の空き時間などに、ホテルの部屋に集まってサッカーゲームなどをやっていました。ただ、最近はゲームをやる機会が減ってしまいましたね。eスポーツにもあまり詳しくありませんが……」

前園さんはそう前置きしてから続けた。

「先日行われたアジア競技大会では、デモンストレーション種目として行われた『ウイニングイレブン』で、日本チームがみごと優勝して話題になりましたし、最近はeスポーツのニュースを見る機会が増えたと感じています」

テレビ番組などの仕事を通じて、eスポーツの盛り上がりを感じているという前園さん。eスポーツに対してはどのような印象を持っているのだろうか。

「今回のNBA 2K19のように、スポーツゲームの場合は特にスポーツらしさがあると思いますが、それ以外のゲームでも“対戦”という意味ではスポーツに近いのではないかと感じています」

リアルスポーツ出身者から見ても、eスポーツの競技性などには共感できる部分があるようだ。

「“体を動かす=スポーツ”というイメージは強いかもしれませんが、スポーツのおもしろさは、それだけではありません。観戦することも、『あの選手がよかった、あのプレイがよかった』と語ることも、醍醐味の1つだと考えています。そういうおもしろさがあるからこそ、eスポーツも人気が出てきたのではないでしょうか」

自分がプレイするだけでなく、観る、語るなど、さまざまな要素から成り立つスポーツ。もちろん、フィジカルスポーツと異なる部分もあるが、自分の体の代わりに画面の中のキャラクターを動かすことで、“スーパープレイ”を披露することが可能だ。そして、プレイを見たファンが盛り上がり、語り合う。そう考えれば、スポーツと名前が付いていることも、納得できるような気がする。

リアルスポーツとeスポーツが生み出す相乗効果

日本で成熟しているプロスポーツというと、「野球」と「サッカー」を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。どちらも国民的スポーツだが、最近その2つのリアルスポーツがeスポーツに参入し始めたのだから驚きだ。

たとえば、日本野球機構(NPB)は、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球(パワプロ)』と、アクションシューティングゲーム『スプラトゥーン2』でプロリーグの開催を発表している。パワプロでは、セ・リーグとパ・リーグの全12球団が「eドラフト会議」を行い、球団でプロゲーマーを雇うのだ。そして、リアルスポーツのプロ野球で行われる「ペナントレース」と同様に「eペナントレース」を実施し、「e日本シリーズ」で日本一を決める。

サッカーでは、日本サッカー協会(JFA)が日本eスポーツ連合(JeSU)と協力し、2019年の「いきいき茨城ゆめ国体・いきいき茨城ゆめ大会」文化プログラムで「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」を開催。そのほか、明治安田生命がサッカーゲームの『FIFA』で「eJリーグ」を開催したり、東京ヴェルディや横浜F・マリノスがeスポーツチームを設立したりと、リアルスポーツとeスポーツのコラボレーションが目立つ。

このリアルスポーツとeスポーツの接近について、前園さんはどう思っているのだろう。

「Jリーグのチームには女子がありますし、バレーボールや陸上競技など、ほかのスポーツ競技のカテゴリーを持っているチームもあります。そのなかの1つとしてeスポーツチームが増えていく可能性はあるでしょう。僕としては、eスポーツをきっかけに、サッカーをはじめとするさまざまなスポーツに興味を持ってもらえるようになればうれしいですね。eスポーツはこれからもっと広がっていくと思いますし、共存していくべきです」

手軽に遊べるゲームが、スポーツに関心を持つきっかけになり得るのだと前園さんは考える。eスポーツ普及のためにリアルスポーツ団体が協力するという構図で捉えられることが多いが、両者の歩み寄りはリアルスポーツにとってもメリットがありそうだ。