既報の通り、ニコンはフルサイズセンサーを搭載した新しいミラーレスカメラ「ニコン Z7」「ニコン Z6」を発表しました。同社初のフルサイズミラーレスで、優れた光学性能や撮影性能などの特徴を前面にアピールしています。
カタログなどでは紹介されていない開発秘話や製品のポイント、今後のミラーレス戦略などについて、ニコン 映像事業開発統括部長の池上博敬氏にインタビューしました。
ミラーレスに傾倒せず、一眼レフとの2本柱で展開していく
新たに開発した「ニコンZマウントシステム」を採用したZシリーズ。同社は、「D850」や「D5」をはじめとするデジタル一眼レフカメラ「ニコン Dシリーズ」もラインアップしていますが、今後はミラーレス重視の商品展開になっていくのか…?という点が気になるところでしょう。
池上氏は「Z(ミラーレス)とD(一眼レフ)の両輪で、それぞれしっかりした製品を作っていくのがニコンの方針」と改めて強調。優れた製品を両シリーズで提供し続けていくことが開発陣のテーマだとして、一眼レフも継続して新製品の開発を続けていく意向を明確に示しました。
今回、新たにZマウントを採用するにあたって、池上氏は「ゼロベースで検討を積み重ねて開発した」と語ります。ミラーレス化によりボディを大幅に小型化することは可能ですが、光学性能を高めることを目指すとなると、マウントの内径は55mm、フランジバックは16mmという数字がベストという判断になったそう。その結果、新たなマウントが誕生することになったそうです。
ソニーのα7シリーズの登場でフルサイズミラーレスの市場が急速に盛り上がり、ニコンに対してもユーザーからの要望が高まっていたことも、新マウントを搭載したミラーレスが誕生する背景にあったようです。ニコンは、1インチセンサーを搭載したミラーレス「Nikon 1」シリーズをラインアップしていましたが、すでに販売を終息しています。これまで、ニコンはキヤノンとともにフルサイズ一眼レフカメラを精力的に投入してきたものの、既存ユーザーの流出防止や新たな顧客獲得、そして新しい価値の提供に、フルサイズのミラーレスカメラが不可欠と判断したわけです。
今回はたまたま一眼レフ似のデザインに仕上がった
今回のZシリーズは、デザインの自由度が高いミラーレスではありますが、ボディのデザインはこれまでのデジタル一眼レフを強く意識した仕上がりとなっています。池上氏は、「プロやハイアマチュアが安心して使ってもらえる信頼性、堅ろう性、防塵防滴性能などを担保するために開発を進めたところ、このスタイルに落ち着いた」と語ります。グリップを握ってファインダーをのぞく、という撮影スタイルにおいては最適なデザインといえるでしょう。
特に、EVFは「プロの方々にも光学ファインダーとそん色なく使ってもらえるクオリティを目指した」(池上氏)とのことで、既存の一眼レフユーザーも注目できるポイントといえます。
ただ、デザインに関しては「今回はたまたま一眼レフ似に仕上がった」と語る池上氏。前述の通り、ミラーレスカメラはデザインの自由度が増すので、特にエントリー向けではまったく異なるデザインのカメラを投入する可能性はありそう。このあたりは、一眼レフにはないポイントとして注目できるでしょう。
Z7やZ6のボディサイズは、「このぐらいのサイズでないとユーザーに受け入れられないだろう」という判断から決められたそう。まず大まかなサイズありきで、そこに開発陣が必要な機能を詰め込んでいった、という流れで開発が進められたとのことです。
プロ向け一眼レフに相当する機種は「ご期待ください」
気になるのは、フルサイズミラーレスで高い人気を誇るソニーのαシリーズに対し、どのようなアドバンテージがあるのかです。池上氏も、機種名こそ明言しませんでしたが、「ニコンZの競合となる製品はみなさんのご想像通りだと思います」とコメント。
アドバンテージは、何より光学性能の高さがあるといいます。交換レンズは、最高の描写性能を実現すべく設計され、解像感や立体感は一眼レフ用を上回るとのこと。ボディ側も、Zシリーズのために新しい画像処理エンジンを開発して搭載。こうした点などから「写真や動画の表現力は従来の一眼レフよりも上がっている」(池上氏)と自信を見せました。
「写真ファンのみなさんは、Z7は(ニコンのデジタル一眼レフカメラでは)D850に相当する高画質モデル、と判断されるのではないでしょうか」と池上氏は語ります。今後、D5をはじめとする「Dのひとケタモデル」に相当するプロ向けの上位機種が出る可能性は十分にありそうで、池上氏も「ご期待ください」と意味ありげにアピールしていました。
発表会では、サードパーティにZマウントの仕様を公開しないというコメントがありました。実は、ニコンでは一眼レフのFマウント用レンズでも同様の対応をしていたそうです。池上氏は、レンズメーカーがリバースエンジニアリングによってZマウント用レンズを独自に開発することを見込んでいるそう。もっとも、Zマウント用レンズを開発するかどうかはレンズメーカー次第といえますが、レンズメーカーがこぞって開発したくなるような魅力的な製品展開をニコンには期待したいところです。