カレンダー絵文字の日付が各社でバラバラになっているということは、その文字が示す意味が異なっているということであり、ひいては、「文字としての同一性」の点で問題となり得ると言える。

カレンダーの絵文字の中の日付で同じ意味を伝える場合、スケジュール面での意味合いが中心となり、日付自体に意味が付与されているのは「国際絵文字デー」ぐらいかもしれない。そんな中、他の絵文字で最近、問題になったものがある。それは、ピストルの絵文字だ。

今年4月に、GoogleはAndroidの絵文字セットの中で、ピストルの絵文字を水鉄砲に変更している。Twitter、Microsoft、Samsung、Facebookなども追随し、絵文字からピストルの絵柄は消えた。

その理由は、2018年に入っても多発している銃の無差別銃撃事件だ。そこから人々にとって最も身近なデバイスであるスマートフォンからピストルを削除しようという動きが出てきたというわけだ。子供のコミュニケーションの中でピストルを目に触れないようにし、またテクノロジー企業として銃規制を推進すべきという姿勢を示した、と読み取ることができよう。

  • ピストルの絵文字、各社の変遷(Image:Emojipedia)

現在のトランプ大統領は、銃規制に否定的な立場を採っている。全米ライフル協会がトランプ大統領を支持しており、米国内に置いては強力な票田であることも背景にある。一方シリコンバレー企業は一般的に、リバタリアン的でなく、穏健なリベラルで、完全自由という社会の在り方には慎重な姿勢を示している。

実はピストルの水鉄砲化の嚆矢となったは、Appleだった。Appleは2016年に、ピストルを水鉄砲に変えており、他社がそれに追随した、という流れになっている。

2016年と言えば、Appleがサンバーナーディノでの銃撃事件の際、FBIが要求していたiPhoneのパスコードロックの回避を拒否したというエピソードを覚えている人も多いだろう。捜査協力より顧客のプライバシーを優先するという判断を下す中、銃規制の必要性を絵文字で訴えていたのだ。

Appleの英断に称賛の声が上がる一方で、前述の「絵文字の同一性」の観点からは、この件はかなり危険な賭けだったとも言える。Appleだけがピストルを水鉄砲に変えてしまうと、同じUnicodeの絵文字が他のプラットホームに送信する場合、全く異なる意味として伝わってしまう可能性があったからだ。

例えば、「公園に(水鉄砲絵文字)持ってこい!」というメッセージを友達3人に送ったとする。相手がiPhoneであれば、水鉄砲を持ってくるかもしれないが、もしAndroidユーザーが混ざっていたら、その人はもしかしたら、本物の銃を持ってこい、果たし合いだ!という意味で伝わってしまうかもしれない。日本に住んでいれば、そんなもの冗談に決まっている、と思われるかもしれないが、銃が規制されていない米国においては、笑い話とも言い切れないのだ。そもそも銃の所持が規制されていない社会に問題があるが、Appleが足並みを揃えずにピストルを水鉄砲に変えたことは、非常にリスクのあることだった。

同一性のリスク以外にも、文字を使った政治的なメッセージを込めるのに、懸念がないことはない。個人的には銃規制に賛成だが、そう思っていない人も、スマートフォン上ではピストルの絵文字を使えなくなってしまったからだ。例えば全米ライフル協会などの銃規制に抵抗する人たちから、米国合衆国憲法修正第1条にある「表現の自由」を盾に訴訟を起こされたら、Appleが敗訴する可能性は否定できず、その場合には、もちろん、なんらかの対応が必要になるだろう。