モジュール方式の採用で付加価値を提供

「半導体の試験/テスト工程というと、後工程でパッケージングを終えた最終段階における良品検査がよく思い浮かぶが、近年、高まりつつあるのが、それよりも前段階、特に前工程での特性/パラメータの解析(パラメトリックテスト)ニーズだ」。そう語るのはテクトロニクス社のテスト/計測部門の1つであるケースレー(Keithley、A Tektronix Company)の半導体テスト・システム事業部の責任者を務めるMark A. Cejer(マーク・シジャー)氏だ。

  • Mark A. Cejer氏

    Keithleyの半導体テスト・システム事業部の責任者を務めるMark A. Cejer氏

ケースレーとパラメトリックテストのかかわりは古く、1970年代に量産試験に対応するテスタを提供する半導体試験部門を設立。1980年初頭に、デジタル式半導体パラメータアナライザを発表するなど、常に業界をリードする試験システムの提供を長年にわたって行なってきた。そんな同社に変化が訪れたのは、2000年代に入った頃。それまでのさまざまなニーズごとにマッチされた専用システムを提供するというビジネスモデルを採用していたが、ITバブルの崩壊などもあり、採算性が悪化。それまでのビジネスモデルの見直しが求められることとなった。

そうして心機一転。これまでの手法から、新たに汎用計測器を組み合わせることで、採算性を維持しつつ、顧客のさまざまなニーズに対応を図る、という方針に転換。そうして2010年、新生量産試験用テスターとして「S530」が登場することとなる。基本的な考え方は、非常にシンプルだ。シンプルかつ直感的な特性評価を研究室などで行なえるボックス型のSMU(Source Measurement Unit)を中核に、活用される分野に応じて、各種のモジュールを組み合わせて提供するというもので、これにより、研究室から、量産ラインまで、同一の試験/テストフローを実現することも可能になったという。

  • ケースレー製品の適用範囲
  • ケースレー製品は量産領域にも適用が可能
  • SMUをベースに、適用分野に応じたモジュール構成を採用することで、同一の試験/テストフローでをあらゆる工程に適用することが可能となった (資料提供:テクトロニクス社)

新たなニーズの拡大が市場成長を後押し

「ケースレーにとっても、半導体は重要な市場だ。特に、半導体産業は未曾有の好景気を迎えているが、そのけん引役となっているのが、自動車の電動化、SiCやGaNといった次世代パワー半導体の市場拡大、そしてIoTを中心とする5GをはじめとするRF通信やイメージセンサ、3Dセンサといったミクスドシグナル分野の拡大、といった3つの事象」(同)であり、それらに共通するのは、需要の拡大に伴い、ウェハの生産量が増加するということ。当然、ウェハの生産枚数が増えても歩留まり率100%は無理なため、不良品がでてくることとなる。一方で、小型化などの技術の発展に伴い、パッケージングコストも増加しており、パッケージ化された後の良不良判定では、パッケージにかけたコストが無駄になる。できればウェハの段階(ダイのレベル)で、特性評価を行い、不良のものは省きたい、というニーズから、ケースレーのようなパラメトリックテスタの活用が差別化要因として強みを持つようになってきたとする。

「プロセスの上流でウェハの特性を図りたいというニーズ。中でも近年は、自動車やエネルギー分野のエレクトロニクス化により、1200Vとか3000Vといった高耐圧に対するニーズなど、カスタマが要求する特性に変化が生じてきている。それをウェハ上で対応できる製品を提供できるのがケースレーの特徴だ」と同氏は自社の現在の強みを説明するほか、「低消費電力が求められるようになり、アナログ半導体の重要性が増す現在、そうした成長率の高い分野にマッチした製品を展開していく、という戦略をケースレーは採用しており、そのために必要な技術開発や認証取得なども進めている。事業者などはその最たるもので、半導体が死ねば人も死ぬ危険性がでてくる。だからこそ、徹底したテストを工程ごとに行なっていく必要があるが、それではオペレーションコストが増加してしまう。だからこそ、1つひとつのテスト時間を最小化することで、オペレーションコストの最小化を図ったり、トレーニングを含めて、フレキシブル性を持って、用途に応じて、柔軟に仕様を変えられる現在の戦略が生きてくる」と、その特徴を強調。汎用機をモジュール構成でシステムを構築しているため、一部のモジュールを最新型に切り替えて、アップデートを図る、といった対応が可能になる点も、投資対効果を出したい、という現状の顧客ニーズにマッチしているとの評価を受けており、日本でもこの数年で、テストシステムの入れ替えを行なう動きがでてきたという。

重要市場となっている日本

現在、同社は研究室向けのSMU「モデル2461」、特性評価システム「モデル4200A」、そして高速生産向けの自動化システム「モデルS535」といったニーズに応じた複数のラインアップを展開している。

  • ケースレーの製品ラインアップ

    ケースレーの製品ラインアップのイメージ。用途に応じた形でモジュールの構成を変更している (資料提供:テクトロニクス社)

また、同氏は、「ケースレーとしては、システムとしてテスタを提供するビジネスに対する投資を継続して行なっており、新たな価値をアナログ半導体分野にもたらすことを目指し、半導体メーカーと協力して開発を進めている。複数の新製品開発や性能向上に向けたオプションなどの研究開発プロジェクトが進行しており、2019年には新製品の開発が加速され、今後数年は、毎年のように、何かしらの新製品がアナウンスされる予定だ」と積極的に投資を行なっているとし、日本の顧客とも製品の開発を積極的に進めているとする。

さらに、「実は、パワー半導体テストシステム『S540』の最初の顧客は日本だった、日本企業は、先行して新技術を活用したいという側面があるので、共同で製品の開発を進める、といったことも多々あり、付き合いのある企業との案件も増加傾向にある。そうした意味では、日本市場はケースレーにとって、注目すべき市場となっている」と日本がケースレーの重要市場の1つになっていることも強調する。

  • 量産試験用テスタ「S5xxシリーズ」のラインアップ

    量産試験用テスタ「S5xxシリーズ」のラインアップ。多様化するニーズに、柔軟に対応することができるようになっている (資料提供:テクトロニクス社)

なお、同氏は、「日本が強みを持っているアナログ半導体。そこに対してケースレーは多くの企業とよい関係を構築してきた。その関係は今後も変わらないし、より多くの企業と協力していきたいとさえ思っている。そうした顧客企業が、いろいろなやりたいことを実現できるだけの対応力が我々には備わっていると思っているし、そこを評価してもらえれば、長期的な協力関係も構築できると思っている」と、日本企業のやりたいことを積極的に計測機器ベンダとしての立場から協力していくことで、日本企業が競争力強化を図っていく手助けをしていきたいとしていた。

  • S535の概要
  • S535の概要
  • S530比で2倍の生産能力を実現した最新モデルとなるS535。旧モデルのS400の置き換えなども狙っていくという (資料提供:テクトロニクス社)