土台となるハードウェア構成をできるだけ変えず、発展に必要な核となる部分だけは自分たちで作り、残りはソフトウェア基盤による進化を徹底することで、AppleはiPhoneを成長させてきた。

そのソフトウェアの進化の片側がiOSなら、もう片方はアプリだ。2008年7月11日は、そのアプリ配信プラットホーム「App Store」開設の日でもあった。

App Store初日からアプリを提供している数少ない日本のデベロッパーに「物書堂」がある。「ウィズダム英和・和英辞書」や「大辞林」など、辞書アプリを中心にリリースしてきた。その物書堂が、App Store10周年に寄せて、ブログにこんな投稿をした

筆者も物書堂の辞書アプリはiPhoneに常に入っている。重たい国語辞典や英和辞典を持ち歩いたり、電子辞書として別のデバイスを持たなくても済む利便性は非常に高く、仕事のお供になっているのだ。

物書堂は10年間、4人の開発体制で、75本ものアプリをリリースしていたそうだ。1本2,000円を超える辞書アプリを、累計120万本販売してきた。開発者の能力を最大限にスケールさせてきたのに加え、App Storeプラットホームが小規模デベロッパー、あるいは個人でも十分に成功を収められるような特質があったところに、このサクセスストリーの背景がある。ソフトウェアの歴史の中で、対デベロッパーという意味合いにおいて、App Storeは非常に重要な発明だったと評価されるべきである。Appleは過日、自社のウェブサイトで、App Storeがオープンして10周年を迎えたと報告した。個人から大規模企業にまで平等なアプリ開発と配布・販売の機会をもたらしたとアピールしているが、そこに反論の余地はないだろう。

その一方で、アプリ開発者は「リジェクト」に怯えながら開発してきたのも事実だ。App Storeで配布・販売されるアプリはすべて、Appleによるレビューを通過する必要がある。 物書堂は前述のブログポストで、今後、これまでのように辞書アプリというカテゴリでの大量リリースは認められず、コンテンツストア型のアプリへの移行を促されたという。新規アプリの登録やアップデートができなくなる、つまりリジェクトが通告され、物書堂はビジネスモデルを変更せざるを得なくなった。Appleの強制的指導の発動とも言える事態ではあるが、物書堂は物書堂で、別なメリットがあるという認識でいるようだ。ブログでは、コンテンツストア型の統合辞書アプリ化によって、ユーザーは1つのアプリから複数の辞書にまたがる検索ができるようになるなど、新たな利便性の獲得を訴えている。

Appleはレビューで、バグがないかどうかだけでなく、アプリのインターフェイスや機能、ビジネスモデルに至るまでをチェックし、ガイドラインに抵触している場合に差し戻している。厳しいゲートキーパーのような振る舞いは、Appleが考える「iPhone体験」の質と安全性を保つための措置であり、今後もこの方針は堅持していくことになるだろう。