日産自動車と産業技術総合研究所(産総研) 自動車ヒューマンファクター研究センターは7月5日、共同で進めてきた「ペダル操作の違いが運転車の心理状態と脳活動に及ぼす影響」に関する研究結果として、アクセルペダルだけで加減速を行い、ブレーキペダルへの踏みかえ回数を減らした「ワンペダル操作」が、従来のアクセルとブレーキを使い分けるペダル操作(ツーペダル操作)に比べて、運転がより楽しく感じられることを、脳波の動きなどから確認したことを発表した。

  • ワンペダル操作の概要
  • ワンペダル操作に関する研究の概要
  • ワンペダル操作の概要と今回の研究の概要

具体的には、12名の実験参加者(男女各6名、22歳~55歳)に対し、運転中の脳波計測ならびに運転後の質問紙調査を実施。質問紙の調査ではツーペダル操作時と比べ、ワンペダル操作時に「運転が楽しかった」との項目に対する評定値が統計的に有意に高いことが確認されたほか、脳波計測の結果、ツーペダル操作に比べて、ワンペダル操作での運転時の注意状態が、客観的評価方法の1つである課題非関連プローブ法における聴覚N1成分が統計的に減衰していることが確認された。

  • 実験の概要
  • 実験で用いられたコース
  • 実験の概要と、実験のコース。参加者はワンペダル操作での運転、ツーペダル操作での運転を各12回同様のコースで実施。その間の脳波などの測定が行なわれた

  • 実験に用いられた質問紙の内容

    実験に用いられた質問紙の内容

  • 実験で計測された生理指標

    実験で計測された生理指標

聴覚N1成分の減衰は、集中して楽しいことをしているときに生じる反応であり、先行研究の結果も含めて、「楽しさに関連して生じる作業への集中の度合いを表すもの」(産総研 自動車ヒューマンファクター研究センター 認知システム研究チームの木村元洋 主任研究員)とされている。

  • 聴覚N1成分の概要

    聴覚N1成分の概要。図の波形の沈んでいる部分が聴覚N1成分。これが楽しい状態での集中が高まると、±0に近づいて領域が減っていく(減衰していく)。その隣の+方向の波形は逆に焦った状態などでの集中を示す別の成分。こちらも集中度が高まると、±0の方へと減少していくことが知られている

  • 聴覚N1成分に関する先行研究結果

    聴覚N1成分に関する先行研究結果

  • 今回の研究における聴覚N1成分のワンペダル操作とツーペダル操作における差

    今回の研究における聴覚N1成分のワンペダル操作とツーペダル操作における差。統計的に有意差があることが確認された

  • 聴覚N1成分の減衰と集中の関係性

    聴覚N1成分の減衰と集中の関係性。人間がさまざまなものに対する注意を向ける量は限度があり、注意資源を配分することでバランスを取っている。作業に集中すると、その作業に配分される注意資源量は増加することとなり、ほかへの注意がおろそかになりやすい

また、質問紙の運転が楽しかったという項目の有意差は、実験の前半でも、後半でも、同様に生じていることを確認。このため、ワンペダル操作が実験参加者にとって初めてで、新鮮に感じたり、ワンペダル操作に不慣れであったために生じた効果とは考えにくいとしており、研究グループでは、これらの結果から、ワンペダル操作での運転が、運転者によって、ツーペダル操作と比べてより楽しいこと、ならびに楽しさの重要な要因である運転への集中状態を自然に引き出すことが示されたものと考えられると説明している。

  • 「運転が楽しかった」の項目に対する有意差

    ワンペダル操作とツーペダル操作で、質問紙における「運転が楽しかった」の項目に対する有意差が実験の最初から最後まであることが確認された

なお、これ以外の質問紙の項目ならびに生理指標(眼電図ならびに心電図)には統計的な有意差は認められなかったともしており、これらの結果から、脳波などを活用した運転者の心理状態を評価する技術は、運転操作系に対する新たな設計支援技術になる可能性があるとしており、引き続き、新たな運転操作系が運転者にどのような影響をおよぼすのかを調べていく予定としている。