Western Digital(WD)は6月21日、同社のCTOであるマーティン・フィンク氏が来日したのにあわせ、都内で会見を開き、第5世代RIACプロセッサとなる「RISC-V(リスク ファイブ)」を同社が採用するに至った背景の説明を行なった。

時代によってデータが果たす役割が変化

コンピュータから生み出されるデータは、時代ごとに、その役割を変化させてきた。インターネット以前であれば、紙の記録をデジタルへと変化させるといった程度であったものが、インターネットの普及により、通信でのやり取りに用いられるようになり、そして現在は、さまざまなセンサなどから生み出されたデータを活用して、生活や業務の効率向上に活用されるようになってきた。「地図データなどはその最たる例だ。誰も紙の地図を持ち歩かなくなった」と同氏はデジタルデータが自然と活用されていることを強調。今後は、データが電子マネーといった形などで通貨としての役割も担うことになるとする。

  • 時代ごとのデータの役割の変化

    時代ごとのデータの役割の変化

そうして日々生み出される膨大な量のデータだが、近年流行りの多くのデータを収集し、それを分析し、ある程度の時間軸の中で新たな知見を生み出す「ビッグデータ(Big Data)」のほか、最近では、データを高速に処理し、即時にそのデータを活用する「ファストデータ(Fast Data)」と呼ばれる考え方も登場してきた。

いわゆるIoTのIT(クラウド)とOT(エッジ)の分類に対するデータの分類なわけだが、その一方でいずれのデータの処理には汎用プロセッサがこれまで長年にわたって用いられてきており、その演算性能を向上させることで、さまざまなデータに関するニーズに対応してきた。「ビッグデータとファストデータはデータ活用という点では、対極に位置するような存在であるため、それぞれのデータをフルに、かつ効率よく活用するためには、それぞれにマッチした専用のプロセッサが必要になってくる。つまり、従来のプロセッサでは、カスタマから要求されるニーズを満たすことが難しくなってきた」と同氏は、現在のデータを取り巻く状況を説明する。

  • クラウドとエッジともいえるビッグデータとファストデータの関係性
  • クラウドとエッジともいえるビッグデータとファストデータの関係性
  • クラウドとエッジともいえるビッグデータとファストデータの関係性。データ処理に関しても、その方向性が異なってきている

「どういったデータをどのように処理するのか。これを踏まえて、ニーズごとにさまざまなCPUコアを選択する必要がある」(同)とし、WDとしては、ビッグデータ、ファストデータそれぞれにマッチした専用プロセッサを用意することで、そうしたニーズに対応するためにRISC-Vが選ばれたとする。

  • 従来の汎用プロセッサのアーキテクチャの例

    従来の汎用プロセッサのアーキテクチャの例。この場合、OSやメモリ容量、インタフェースなどは選択したCPUで規程される場合が多く、今後、帯に短したすきに長し、といったオーバーヘッドが生じやすくなるリスクが増していくという

ただし、「汎用プロセッサがなくなるというわけでもない。つまり、RISC-Vを用いた専用プロセッサは、現状の汎用プロセッサを置き換えるものではない。将来的に、汎用プロセッサを越すパフォーマンスを提供するためのものとなる」ともしており、「ビッグデータはストレージセントリックなアーキテクチャ、ファストデータはメモリセントリックなアーキテクチャをそれぞれ採用していくことになる」とその方向性を示した。

  • ビッグデータならびにファストデータにおけるアーキテクチャの考え方
  • 目的別に柔軟に対応可能なRISC-V
  • ビッグデータならびにファストデータにおけるアーキテクチャの考え方。それぞれ別の方向性が示されることから、それぞれにマッチしたアーキテクチャを選択する必要性がある。RISC-Vは、目的別に特化する形で構築することが可能であり、高い柔軟性を持って対応することが可能になるとする

オープンソースハードウェアを選んだ理由

専用プロセッサという意味だけであれば、別段RISC-Vでなくても良い。そうした点について同氏は「次世代プロセッサとして重要な点の1つにオープンであるということが挙げられる。これまでソフトウェアの世界では、オープンソースであるということで、イノベーションが生み出されてきた経緯がある。RISC-Vはオープンソースハードウェアだが、多くのパートナーたちがエコシステムを構築して、そうしたイノベーションを生み出していくことができる存在だと考えている」と述べており、「今後のデータ処理に対して沸きあがってくるさまざまな課題に対処するのに、RISC-Vが理想的なアーキテクチャになると考えている」と、その将来性を強調する。

また、「我々はRISC-Vにかけていると言っても良いし、年間10億個を越すコアを提供している企業だ。しかもその数は今後、さらに増加していく見通しである」と、各種ストレージなどのコントローラに順次適用していくことを示唆。早ければ2019年に第1弾のRISC-Vベース製品を提供するとするほか、将来的には7年程度の時間をかけてすべての製品をRISC-Vベースに移行させていくという計画を披露した。

さらに、「RISC-Vのエコシステムの加速に向けて、我々は主に、コミュニティ向けオープンソースIPビルディングブロックに対する開発支援や、エコシステムの構築強化に向けたパートナーシップの推進などにも投資を行なうことで、コンソーシアム(RISC-V Foundation)に参加を表明する企業も増えてきている」とし、単にWestern Digitalだけではなく、RISC-Vのエコシステム全体で発展を目指すことで、さらなる成長が全体として見込めるようになると述べ、今後も積極的にエコシステムの発展に向けた取り組みを推進していくとした。

  • Western Digitalが進めているRISC-Vに関する投資例

    Western Digitalが進めているRISC-Vに関する投資例

なお、同社では、ストレージのコントローラ以外の分野にもRISC-Vを適用していきたいとしており、将来的にはストレージコントローラながら、ビッグデータ処理やマシンラーニングなどを行なうだけのパフォーマンスを提供していきたいとしている。