パナソニックという社名を聞くと、多くの人が思い浮かべるだろう「家電」。それを生み出す社内カンパニー「アプライアンス社」の中に、"既存の商品開発をしない"デザインチーム"がある。2017年から活動を開始したデザイナー集団「FUTURE LIFE FACTORY」だ。

既存の商品開発では、冷蔵庫や電子レンジなど、われわれにもなじみ深い家電のカテゴリごとに、担当のデザイナーが存在する。一方、「FUTURE LIFE FACTORY」はどのカテゴリにも紐付かない独自部隊で、彼らの目的は、あくまでもパナソニックが提供する「価値」を、将来を見越した上で向上させることにあるという。

彼らはこの1年あまりで何を成し、これからどこへ向かおうとしているのだろうか。今回は、同チームのリーダーである内田亮太氏と姜花瑛氏、そしてチームメンバーの方々に、現在の取り組みと今後の展望について、お話を伺った。

  • 「FUTURE LIFE FACTORY」のメンバー。(前列左から)姜花瑛氏,内田亮太氏、中内菜都花氏、(後列左から)井野智晃氏、迫健太郎氏、今枝侑哉氏、足立昭博氏

    「FUTURE LIFE FACTORY」のメンバー。(前列左から)姜花瑛氏,内田亮太氏、中内菜都花氏、(後列左から)井野智晃氏、迫健太郎氏、今枝侑哉氏、足立昭博氏

――最初に、「FUTURE LIFE FACTORY」について簡単に教えてください。

姜氏: 「FUTURE LIFE FACTORY」は、パナソニックの中で家電の開発を行っている「アプライアンス社」のデザイナーで構成されているチームです。

ここ3~4年で、インハウスデザイナーを取り巻く環境というのは大きく変わっています。そうした変化に対応するための組織として、2017年4月から活動を開始しました。

――インハウスデザイナーの環境に起こっている「変化」とはどのようなものでしょうか?

姜氏: 近年、いわゆる「モノからコトへ」と言うフレーズに代表されるように、「体験価値の提供」が重要視されていることが大きな要因です。その一方で、パナソニックの社内カンパニーの中でも、特に「モノ」をつくるプロダクトデザイナーの割合が多いのがアプライアンス社です。

「ものづくり」を主軸にしてきたパナソニックが変化に対応していくには、既存のプロダクト開発の枠に留まらない、より広い視野でデザインの模索が必要だという思いを、立ち上げメンバーは皆持っていました。それが組織として認められ、ちょうど活動から1年が経過したというところです。

  • 「WEAR SPACE」
  • 「UCHIMIZU」
  • 「FUTURE LIFE FACTORY」が生み出したプロダクト(左:「WEAR SPACE」、右:「UCHIMIZU」)。いずれも既存の「家電」のカテゴリには属さない機能を持っている。記事の後半でこれらが生まれたいきさつを聞いていく。

――組織化されるに至った経緯は?

内田氏: 組織として立ち上がるきっかけになったのは、アプライアンス社デザインセンターのトップが臼井重雄所長に変わったことです。臼井所長は変革を推進していて、関西の複数拠点に在籍していたデザイナーを、先日開所した京都オフィスに集結させました。

先ほど姜さんが話した僕たちの思いを、「FUTURE LIFE FACTORY」という組織で追求しようということになったのも、この変革の一環です。このチームは組織的にも所長直下ということになっていて、既存の開発構造よりも素早い決断が可能になっています。また、メンバーは20~30代がほとんどで、パナソニックとしては若手がそろっているのが特徴です。

――若手の思いが結実して出来たチームなのですね。続いては、「FUTURE LIFE FACTORY」がどのような目標を掲げて活動しているか教えていただけますか?

姜氏: 「FUTURE LIFE FACTORY」を一言で表すなら、「豊かな暮らしを再定義し、具現化していく集団」と言えると思います。近年、「暮らしの豊かさ」は大きく変化しています。国内で展開している「ふだんプレミアム」という広告展開で示していて、多くの方に共感いただけているものと感じています。

その一方で、10年先を考えると、さらに豊かさは多様化していくと思います。また、京都の開発メンバーは、それぞれの担当製品によって、「憧れのくらし」を生み出し、どう実現するかというところに注力しています。

私たちは従来の製品カテゴリーや“モノ”のデザインに留まらない可能性にアプローチしていこうとしています。

――いま、このチームで行われている活動にはどんなものがありますか?

内田氏: 現在、「FUTURE LIFE FACTORY」の活動は、大きく分けて3つあります。前提として、このチームでは既存の製品カテゴリに結びついたデザインは行っていません。

ひとつめが「未来思索」です。パナソニックは事業部制のため、例えば冷蔵庫の担当者であれば「次に開発する冷蔵庫」のことを考えるのが仕事で、ほかのプロダクトに目を配ることは難しくなっています。私たちはそうした開発構造から離れて、さまざまなアプローチで、将来のことを考えた製品提案などをとして行っています。この活動の一環として、SXSWをはじめ大小さまざまなイベントに出展し、いろいろな人を巻き込んでプロジェクトを進めています。

既存の事業構造でも先行開発は行っていますが、外部の方には見せられない機密性の高いもので、製品化に結びつかず、人知れず社内で消えていくプロジェクトが多くあります。社外で評価されたコンセプトを社内に持ち込むという手順によって、製品化を加速するという狙いもあります。

足立氏: ふたつめが「ビジョン発信」です。先述したような個々のアイデアの実現よりも大きなテーマとして、「未来の豊かな暮らし」がどのようなものになるか深掘りして考えています 昨年は、そのビジョンを体現するプロダクトを3つ、2017年11月に実施した「Panasonic Design 展」で提示しました。

  • 調理できる場を"敷く"ことができる布「Feast」

    食の合理化が進む中で『集い、食べる』喜びに焦点を合わせた、調理できる場を"敷く"ことができる布「Feast」

  • 情報とのつきあい方"を提案する「Drip」

    モバイル端末とは異なる"情報との心地よい触れ合い"を提案する「Drip」。水の波紋のように情報を提示する。

  • ユーザーのヘルスケアに関わる生体情報を、既存プロダクトよりも有機的に提示することを目指した、植物に似たデバイス「Bloom」。

    ユーザーのヘルスケアに関わる情報を、既存プロダクトよりも有機的に提示することを目指した、植物に似たデバイス「Bloom」。

姜氏: 3つめは、外部の方々との交流を目的にした一連の活動を総称した「コラボレーションHUB」です。「Talk a lot.」というトークイベントを主催したり、他の企業や団体で開催しているイベントに登壇したりしています。