富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の齋藤邦彰社長は、強い危機感を募らせている。

それは、2020年以降の国内PC市場のゆくえだ。

■新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦
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国内PC市場は、2020年に向けて毎年、市場成長が予測されている。とくに法人向けPC需要は旺盛で、2018年度以降、前年比2桁の成長が見込まれているほどだ。背景には、2020年1月に迎えるWindows 7の延長サポート終了に伴う、買い替え需要がある。

2014年4月にWindows XPの延長サポートが終了した際には、過去最高の年間出荷台数を記録。PCの品不足が問題となるほどの特需が発生した。当然、Windows 7でも、これと同じことが起きる可能性がある。さらに、2019年10月に予定されている消費増税前の駆け込み需要や、2020年7月に開催される東京オリンピックの開催にあわせた景気上昇も加わることになる。

だが、そのあとの特需の反動は避けきれないのは事実だ。

  • 新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦【7】

    FCCLの齋藤邦彰社長

国内PC市場は、2015年度以降、PC出荷台数は3分の2程度にまで縮小。そこから脱しきれない状況が続いてきた。これと同様に、2020年までの活況が予測される国内PC市場は、それを境に、再び市場低迷が見込まれることになる。齋藤社長の危機感の理由はそこにある。

「FCCLが、いまのPCおよびタブレットの製品群を発売しているだけのままでいたならば、需要の反動だけで、5%以上の売上高減が見込まれる。これをどう埋めるかを考えなくてはならない」(齋藤社長)。

これは、レノボグループ全体としてみた場合にも同様だ。

2020年までの需要拡大期においては、レノボ・ジャパン、NECパーソナルコンピュータ、富士通クライアントコンピューティングの3社が、それぞれの体制を維持しながら、製品を投入しつづけることで、グループとしてのビジネスを最大化できる。

振り返ってみると、Windows XPの延長サポート終了時には、とくに法人向けPCが品不足となり、延長サポート終了後の5月、6月も前年実績を上回るPCが出荷されたほどだ。これと同じ状況が起こるとすれば、3社が三様に、ビジネスを展開することが最適解であり、レノボグループが、現時点で、FCCLの体制を、そのまま維持したのも当然といえる。

だが、2020年以降の需要低迷期に入ったときには、どうなるだろうか。

Windows XPのときと同じように、市場が3分の2になれば、単純計算で1社分いらなくなる公式さえ成り立つ。FCCLが、現在の状況を維持できるかどうかも不確かだ。FCCLが、これまでと同様に、同社が得意とする「人に寄り添う」コンピューティングを実現したラインアップを、自ら継続し、製品として提供しつづけていくためには、2020年以降も存在感を持ったポジションにいなくてはならない。

齋藤社長は、PCやタブレット以外の新たな柱となるビジネスを、2020年までに確立する姿勢を明らかにする。その取り組みが、Computing for Tomorrowということになる。2016年4月から、この取り組みをスタートしたのは、2020年以降の新たなビジネス創出を視野に入れていたからだ。

新ビジネスの切り札?

新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦【7】

竹田弘康副社長兼COO と戦略商品のInfini-Brain

そして、その新ビジネスの最有力候補が、Infini-Brainとなる。前回触れたように、Infini-Brainは、Computing for Tomorrowで取り組んできた「KEN」がベースになっている。

KENは、コンビニ、スーパーマーケットなどに設置したカメラの映像をもとに、人の挙動や物の状態を検出。店内の万引き抑止や販売機会損失の抑止などに活用する目的で開発が進められてきた。不審な動きをしている人物をAIが検出すると、その情報を店員に通知。店員が店内を巡回したり、声がけをしたりすることで万引きを抑止する。

より具体的には、360度カメラや指向性スピーカーなどで構成される「KEN-FRONT」と、AIによる画像認識やデータ分析のための「KEN-BRAIN」、動画を受信したり、カメラや音声を操作したり、業務アプリと連携する「KEN-CONTROL」で構成されたものだ。

頭脳部分である「KEN-BRAIN」の開発で培ってきたノウハウを、「Infini-Brain」として切り出し、さらに進化をさせた。開発部門を統括する仁川進執行役員は、「Infini-Brainを軸にした新たなビジネスで、売上高の2割、3割を占めることを目指したい」と意気込む。

新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦【7】

仁川進執行役員

Infini-Brainの詳細なスペックは明らかにしていないが、6つの高性能CPUを搭載するとともに、GPUやFPGAのほか、大量のメモリーも搭載することで、リアルタイムでの高速処理を実現。拡張性も備えた仕様になっているという。仁川執行役員は、「エッジコンピューティングを実現する上で、求められる最高の機能を実現している」と、その高性能ぶりに自信をみせる。

まずは、この高性能エッジコンピュータを求める顧客に対して、「箱」として提供することも検討しているというが、同社が目指しているのは、Infini-Brainを中心においたソリューション展開だ。

竹田弘康副社長兼COOは、「Infini-Brainは、大量に台数が出るものではない。APIを公開したり、SDKを用意したりと、外部のパートナーを巻き込んだ形で、Infini-Brainを活用したソリューション提案を進めていきたい」とする。特定業種や特定業務向けのアプリケーションの開発を支援する体制を構築するなど、「クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングが融合して活用される、新たなコンピューティング時代をリードするソリューションを提供したい」(竹田弘康副社長兼COO)。