京都大学(京大)は5月25日、人工的に狙った場所の遺伝子を活性化できる分子を開発したと発表した。同成果は、ヒストン内に書き込まれた情報や遺伝子活性の異常が引き起こす病気の治療薬や、再生医療研究へ応用される可能性があるという。
同成果は、京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)のガネシュ・パンディアン・ナマシヴァヤム助教、杉山弘 連携主任研究者、理学研究科の谷口純一氏らの研究グループによるもの。詳細は米国の科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。
遺伝子情報が書き込まれているDNAは、細胞内でヒストンというタンパク質とともにヌクレオソームという構造体を形成している。約2万個の遺伝子の活性は、ヒストンに書き込まれるヒストンコードと呼ばれる目印によって個別に制御されている。
ヒストンコードは、別のタンパク質に「読まれる」ことで機能を発揮する。例えば、ヒストンコードの1つであるアセチル化リシンは、遺伝子の活性化に関わっており、P300というタンパク質のブロモドメインに読まれる。
その結果、近くのヒストンがアセチル化されてアセチル基の伝搬が起こり、遺伝子活性化へつながる。このようにヒストンコードは遺伝子活性に重要であり、人為的にヒストンコードを書き込むことができれば病気の治療や再生医療研究への応用が期待される。しかし、それを可能にする薬剤はなかった。
P300は、リシンをアセチル化する酵素(HAT)と「ブロモドメイン」という領域が含まれている。今回、研究チームはブロモドメインに結合する分子「Bi」と特定のDNA配列に結合する分子「PIP」を組み合わせることで、狙ったDNA配列へ配置可能な「Bi-PIP」という分子を開発した。
同分子は、PIPの部分で標的のヌクレオソームのDNAに結合し、Biの部分でP300中のブロモドメインと結合する。その結果、P300中に同じく含まれるHATによって、そのヌクレオソーム内のヒストンがアセチル化され、遺伝子を活性化する。
研究グループは今回、標的のヌクレオソームと標的でないヌクレオソームに対して、Bi-PIPとP30を作用させると、標的のヌクレオソームのヒストンのみがP300によりアセチル化を受けることを見出した。これは、標的のヌクレオソームにBi-PIPが結合し、そこにP300が結合して作用したことを示すものだという。また、Bi-PIPをヒト細胞に投与すると、標的配列の領域でアセチル化を促して遺伝子が選択的に活性化した。
今回の成果を受けて研究グループは、同成果により、ヒストン内に書き込まれた情報や遺伝子活性の異常が引き起こす病気の治療薬や、再生医療研究へ応用される可能性があると説明している。また、今回の研究と同様のアイデアにより、ほかにもさまざまなヒストンへの情報の書き込み方法が生まれることが期待できるとのことだ。