東京工業大学は、凍結過程の水溶液中に分散させたマグネタイト(磁鉄鉱=Fe3O4)微粒子を外部振動磁場中で回転させ、微粒子の界面付近を乱すことによって、過冷却を促進させることに成功したと発表した。この研究結果は、食糧保存や凍結保存技術に向けた医療への応用が期待されるという。

静磁場中で磁気方向に並んだ磁性細菌の電子顕微鏡画像(画像:小林厚子提供、出所:東京工業大学ニュースリリース)

静磁場中で磁気方向に並んだ磁性細菌の電子顕微鏡画像(画像:小林厚子提供、出所:東京工業大学ニュースリリース)

同研究は、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の小林厚子研究員らの研究チームによるもので、同研究成果は、5月7日発行の「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

世界の食糧の40%以上は、生産現場から台所の間で無駄になっているという。生産地での霜害や、台所での凍結保存の際の組織損傷がその一因で、そのほとんどは、氷点下付近で水分子クラスターが氷晶核サイトとなる金属・ミネラルなどの微粒子の表面に集まり、針状に結晶成長し、組織内の細胞膜を破壊することによるものである。そのため、凍結過程において細胞組織の破壊を最小限に抑える手法が望まれていた。そこで注目されたのが、超純水は通常凍結する温度以下でも過冷却の状態を保つという事象である。最終的には氷になるが、このような氷は細胞壁に与える損傷が小さいという。これを食糧の冷凍に応用できれば、凍結損傷を最小に抑えることができるということだ。

小林研究員らはこれまでに、マグネタイト微粒子が多くの動植物組織に存在することを報告してきた。今回は僅かながらのフェリ磁性物質マグネタイト量を検出しているセロリと牛肉片に、地球の磁場より10〜20倍程度強い磁場を外部振動させ、過冷却を促進した。その結果、試料ごとに異なる凍結特性は、組織中に含有するマグネタイト含有量の違いによるもので、外部振動磁場で凍結過程がコントロールできるということは、試料内のマグネタイト含有量にあわせた調整が可能になるという実験結果となった。

この研究結果は、計画的な食糧保存、原種の長期保存・凍結保存技術に向けた医療への応用が期待される。また、氷晶の核形成は、地球・惑星科学においても、その気候・環境を考える上で重要な概念となるため、氷晶の核形成過程におけるマグネタイトの役割を理解することは、今後の気候変動モデルを考える上で大いに役立つと考えられるということだ。