SAS Instituteは今年4月に開催した年次イベント「SAS Global Forum 2018」において、これまで提供してきた統計解析技術をベースとしたソリューションに加え、AIプラットフォームと銘打つ「SAS Viya」を大きく取り上げた。AI時代を迎えた市場に対し、同社のスタンスを明確にした格好だが、SASはどこが変わったのか? CMOを務めるRandy Guard氏に聞いた。

  • SAS Institute CMO Randy Guard氏

--SASはアナリティクス企業として創業し、この分野でビジネスを展開してきた。AIがトレンドになった今、SASの中で変わったこと、変えたことはあるか?--

Guard氏: 創業者兼CEOのJim Goodnightも基調講演でアナリティクスの進化について言及したが、これまで使われてきたテクニックに加えて、画像処理、音声認識などの新たなテクニックが出てきた。スケールも変化した。われわれはこれらの変化を認識し、ちゃんと対応している。

これまで統計解析のユーザーは、パワーユーザーを中心に個人ユーザーが多かった。個人ユーザーがそれぞれのタスクを行っていたところ、少しずつ動的になり、拡張性が出てきた。現在は、正しいアナリティクスのテクニックを使った問題解決をいかにしてスケールのある形で行うかが重要になっている。

機械学習が良い例だ。コンピューティング能力、ストレージが進化するとともに、安価になった。これらを利用して、企業は目標の成果を想定しながらたくさんのアルゴリズムを動かすことができる。高度な処理能力を利用して、最適なアプローチを選ぶことができる。一方、AIでは、これらのテクニックをどんどんフィードしてデータが増えることで、意思決定はさらに良いものになる。

このように、機械学習とAIは似ているが、成果に至る方法が異なる。成果はわかっているが、どのモデルが最適か――これについては、「SAS Global Forum 2018」の初日の基調講演で、「SAS Viya」を使ってデモを行った。AIでは、フィードするデータが増え、システムがモデルを変えると成果も変わってくる。

SASはAIを2つの部分で利用している。1つ目は、アナリティクスプラットフォームであるSAS Viyaの土台レベルで、AIテクニック、機械学習アリゴリズム、データプリパレーション(準備)機能などを提供している。2つ目は、AIをSASのアプリケーションに組み込んでいる。「SAS Global Forum 2018」では、AIを利用してデータプリパレーションを効率化するデモを披露した。

モデルについても、どれを使うかわからない状態でたくさんのモデルを試し、最終的に一番良いものを選ぶことができる。数十年前なら、モデルを選んで実装し、それを使うしかなかった。変更できたとしても月に1度、四半期に1度という頻度だった。今では、リアルタイムまではいかなくても、頻繁かつ容易に変更できるようになった。データが入ってくる頻度やデータの種類・性質などに合わせて変更できる。これは、SASが40年以上前に創業した時とはまったく違う世界だ。

--画像処理、音声認識のほかに、フォーカスしている新たな技術があれば教えてほしい--

Guard氏: SASが大きな投資を行い、その成果があったと感じている分野の1つに、ストリーミングがある。われわれは、高度なイベントストリーミング技術をアナリティクス主導の「SAS Event Stream Processing」として提供する。

この技術は、今後IoTイニシアティブを進めるにあたって中核となるものだ。IoTは重要だが、IoTだけではビジネス上のバリューを得ることはできない。ネットワークのどこかにインテリジェンスが必要だ。中央にある意思決定のエンジンは今後も重要な役割を持つが、それだけでは不十分で、エッジでの意思決定も必要になる。エッジにあるデバイスが処理能力を持つようになり、データストレージも備える。これにより、エッジで意思決定が行われるようになるだろう。

ここでは、GE TransportationがEvent Stream ProcessingをPredixベースのIoTエッジ接続プラットフォーム「EdgeLINC」で動かすことで、列車にエッジデバイスのデータをリアルタイムで分析でき、運行に役立てるプロジェクトを進めるなどの事例が出てきている。

--今後、企業がAIの活用を進めていくうえで、SAS製品のユーザーも拡大していくと思われる。SASとしてはどのように取り組んでいくのか?--

Guard氏: ここでもSAS Viyaは戦略的な製品となる。例えば、SAS Viyaを通じて、われわれは2つのアプローチをとっている。

まず、SAS Viyaではオープンソース(R、Python)の技術も利用できるようにした。これにより、IT部門、開発者、パートナーがSASの上でエンド・ツー・エンドの機能を構築することが可能になった。

エンド・ツー・エンドをカバーするオープンソースのAIプラットフォームはないため、Python開発者らは自分たちで必要な部品を集めなければならない。Python開発者の数は多いため、データプリパレーションは可能かもしれないし、TensorFlowでアルゴリズムを構築できるかもしれない。だが、それだけではアナリティクスやAIを活用できない。SASはそれを理解しており、彼らが使えるプラットフォームとしてSAS Viyaを提供していく。

次に、SASはAI分野で多数の高度な機能を持っており、SAS Viyaでは実装までワンストップで提供する。IBM Watsonは、こうしたワンストップを実現していない。Watsonを実装するためのコストは大きく、拡張が難しい。

つまり、SASにはAIのプラットフォームがあり、アプリケーションにAIを組み込んでいる。これにより、ビジネスユーザーの裾野を広げていくことができる。

例えば、マーケティングディレクターなら、次にどのオファーをすると最も良い効果が出るのかを知りたいはずだ。そこでは、どのニューラルネットワークを使うのか、ではなく、オファーについてのレコメンドが欲しいはずだ。勾配ブースティング、線形回帰、ニューラルネットワークなどについての知識はあるかもしれないが、まずはアプリケーションに組み込まれているアナリティクスを信用しなければならない。

詐欺行為の管理も同じだ。アンチマネーロンダリングは、ルールまたはアナリティクスを用いて疑わしい行為があればアラートするシステムだが、ここで機械学習を使ってアラートを出し、マネーロンダリングの傾向があるものを識別する。その結果、調査にかかる時間とコストを大幅に削減でき、本当に疑わしいものだけを調べることができれば作業の効率も大きく上げることができる。

こうしたことこそ、SASが支援できるところだ。そして、モデルを構築して実装できるので、サービスの時間とコストを大きく削減できる。基調講演では、データを見てクレンジングし、モデルを構築し、1クリックでHadoop環境に実装した。ニューラルネットワークモデルと勾配ブースティングを比較して、どれが最も良いパフォーマンスかを見た。これは、自分の好きなアルゴリズムをダウンロードして、モデルを構築して、といった具体に進めていくのとは大きな違いだ。