テプコシステムズの大友翔一氏。これまでソニー、JAXA(宇宙航空研究開発機構)でデータ分析を担当してきた

SAS Instituteが昨今のAIのトレンドに合わせて投入した「SAS Viya」は、PythonとRというSAS言語のライバルをサポートすることで、プラットフォームとして役割の拡大を図る戦略的な製品だ。同社が米デンバーで開催した「SAS Global Forum 2018」ではさまざまな事例が紹介され、Viyaが着実にSASユーザーの裾野を広げていることがうかがえた。その1社が、東京電力グループ会社のテプコシステムズだ。

東京電力ではデジタル化を課題の1つととらえ、データを使った分析を進めている。テプコシステムズのデジタライゼーション推進グループマネージャーとして東京電力のデジタル化を推進する大友翔一氏(テプコシステムズ システム企画室 デジタライゼーション推進室 デジタライゼーション推進グループ マネージャー)は、ユーザーセッションでデータ分析の一例を紹介した。

世界トップクラスの人口を抱える東京に電力を供給する東京電力は、世界最大の電力会社でもある。契約口数は2900万を超えており、4500万の企業と世帯に供給する。電力消費量は247TWh、発電能力は67GWを誇る。

「電力は常に、そしてランダムに変動している。電力発電を使用状況に合わせることが重要だ」と大友氏。膨大なデータの中から、大友氏は太陽光の発電、それに電力会社にとって重要な需要と供給のバランスについてモデルのシミュレーションを行うことにした。

図1のように、太陽光は同社の電気供給において、比率は低いものの石油と石炭による火力につぐ手法だ。一方で、太陽光発電は天気に依存するという特徴を持つ。そこで大友氏はまず、気象庁のデータと電力需要の関係を分析するために、サポートベクターマシン(SVM)を用いた予測モデルをオープンソースのscikit-learnで作成した。scikit-learnはPython技術者に人気の機械学習ライブラリだ。

  • 図1:東京電力における電力消費(左)と供給(右)の変動。右の供給を見ると、太陽光(緑の線)は火力(オレンジの線)についで高い(水色の線は電力消費、青の線は水力発電)

だが、scikit-learnの場合、図2の右側のグラフのように27度をすぎると電力需要が下がった。「温度が低い時、高い時にエアコンを入れるので、電力消費は上がる。だがSciKit-learnでは落ちてしまう」と大友氏は説明した。

  • 図2:右がscikit-learnを使った予測モデル。気温(横軸)が低いときは電力消費(縦軸)が高く、気温が25度付近から急激に電力消費も上がるが、27度あたりで下がる。左は電力消費と温度の関係(SAS Visual Analyticsを利用)

そこで、Pythonも使えるというSAS Viyaを実験的に試してみた。ディシジョンツリーで0時から7時前、7時から23時と分けて機械学習を実行するなどしたところ、温度の上昇に伴い電力の消費も増えるというモデルになった。

  • 左図、右図いずれもSAS Viyaを利用した予測モデル(tepco3は線形予測、tepco4はツリー予測)。温度が低い時、高い時に電力消費が高くなっている

結果はもちろん、SAS Viyaにも驚いたと大友氏はいう。「10年間PythonとRで統計解析を行ってきた。SAS製品を使った経験はなく、SAS Viyaが初めてのSAS製品だが、使いやすいことに驚いた。ほとんどの分析をPythonからマイグレーションできたし、scikit-learnよりも精度の高い予測分析モデルを構築できた」(大友氏)。学生の頃からSAS言語は知っていたが使う機会がなかったと振り返りながら、「ViyaはSASにとってパラダイムシフトのように見える。そのタイミングで新しいユーザーとして使うことができた」とSASとの出会いの感想を語った。

今回の成果を受け、テプコシステムズは先にトライアルから本格導入をしたところだ。今後、東京電力のデジタル化で重要となるデータ部分で活用をしていく。

  • 東京電力のデジタルプラットフォーム

スポーツ分析ベンチャーのSci Sportsも、Python組だ。サッカーの試合から選手のデータを取得してスコアを出し、選手、スカウト、クラブなどに提供する。

学生時代の趣味だったサッカーのデータ化が講じて起業に至ったGiels Brouwer氏(創業者兼CEO)は基調講演で、「TensorFlow、Pythonなどのオープンソース技術を利用してプロトタイプを構築している」と述べた。SAS Viya導入に至った背景について、拡張性やパワフルさなど、商用製品ならではの要素を備えながら、Pythonに対応していたという点が大きかったと話していた。

SciSportsは2年前より、14台のカメラから取得した試合の動画を処理する新たなサービスを開発しているが、ここではSASの「SAS Event Stream Processing」技術も利用する。「インメモリプラットフォームで大規模なデータを分析し、深層学習モデルを構築している。SAS Viyaなしには不可能だ」とBrouwer氏は述べた。

COO兼CTOのOliver Schabenberger氏は、「アクセスという点で、SAS ViyaはSAS以外のユーザーに門戸を開く多様性を備える。同時に、機能と拡張性に優れ、さまざまなアナリティクスができるプラットフォームだ。これはSAS Viyaの重要な価値提案となっている」と述べる。Viyaはラテン語で「道」を意味するviaから着想を得た。AIにおいて「全ての道はSAS Viyaに通ず」となるのか、SASのプラットフォーム戦略に注目したい。