アナリティクス大手の米SAS Instituteは4月8日から11日にわたり、年次イベント「SAS Global Forum 2018」を開催する。8日夜のオープニングキーノートには、創業者兼CEOのJim Goodnight氏、COO兼CTOのOliver Schabenberger氏が登壇し、AIとデータが主導する「アナリティクス・エコノミー」の到来を予見した。

IoTによりデータとアナリティクスは加速 - AIはさらに重要に

Goodnight氏はまず、この1年のハイライトとして、9月の「SAS 9.4」リリース、12月のアナリティクスプラットフォーム「Viya 3.3」リリースを挙げた。特に、Viya 3.3は初の「コンプリート」バージョンと位置づけられており、大規模なジョブ向けの並列処理、深層学習の実装、医療用のDICOMなどの対応画像フォーマットの拡充などの特徴を備える。新たにMcDonald's、深セン市などの企業や政府がViyaを導入したことも発表されている。Goodnight氏は、Viyaの導入企業として70社以上の顧客名が並んだスライドを示した。

  • SAS Institute 創業者兼CEO Jim Goodnight氏

「SASのイノベーションエンジンは活発で、フル起動している」とGoognight氏。「イノベーションは双方向だ。あなた方がわれわれにより良いソフトウェアのインスピレーションを与え、われわれがそれに応え、SASの技術を装備した企業が世界をトランスフォームしている」と続けた。

現在、多くのベンダーがAIと機械学習に関する戦略を打ち出しているが、SASは1976年の創業時からアナリティクスを専業としてきた。ノースキャロライナ州立大学時代に、同僚と農業研究データの分析のためにプラットフォームを開発して会社を立ち上げるに至ったGoodnight氏は「AIはSASが長年開発してきた高度なアナリティクスの継続だ」と胸を張る。機械学習、深層学習、ニューラルネットワークはAIのビルディングブロックとなる。「SASは、AIのパワーを享受できるよう、製品ポートフォリオ全体にAIを組み込んでいる」と、同氏は続ける。

アナリティクスの燃料となるデータにおいては、大きな変化が起きつつある。それは、IoTだ。2025年に550億台のデバイスがインターネットに接続するという予想を披露しながら、「現在、IoTデバイスからのデータは分析されていない。だが、自動化モデルにより変わる。驚くような結果を得られるだろう」とGoodnight氏は述べる。

データ分析のメリットは企業に制限されない。より大きな社会の問題を解決できるとして、Goodnight氏は米国で深刻な問題になっているオピオイド(医療用鎮痛剤)の乱用問題についてデータを活用して解決に誘導できる例を示した。ある都市の実際のデータを匿名化して、医師への訪問、診断、薬などの情報から、処方の量が多すぎる施設を割り出すというものだ。

壇上では、SAS Viyaを利用して、数ステップでデータを準備し、モデリングしてモデルをリファインして実装するという一連の作業が行われた。ビジュアルなデータマイニングと機械学習インターフェイスを使って完全なアナリティクスサイクルを回して見せた。

  • データを取り込みビジュアルに表示。6万7000人のメンバーのうち、オピオイドを受け取っている人は13.1%の8800人、オピオイドの供給量が多い施設などが表示されている

  • モデリングではニューラルネットワークを利用して、ニューロンの数を10から50に増やしたり、その後勾配ブースティングモデルに切り替えたりしてリアルタイムで反映させた。オペレーションでは、パイプラインとして作成したモデルを再利用可能なプロジェクトとして保存、他の人が作成しているSASコードやマクロを入れたのち、Hadoopやデータベース上に1クリックでパブリッシュした

  • 最終的に、オピオイドの予測確率が低いが処方が多い施設を調査対象として割り出した

雇用問題には楽観、ハードウェアとの関係は逆転

続いて登場したCOO兼CTOのOliver Schabenberger氏は、Goodnight氏の話を受け、「直感に基づく意思決定はデータに基づく意思決定に変わり、退屈で間違いが出やすい作業は信頼できるアルゴリズムを実行するマシンによりリプレースされる」と述べる。その結果、詐欺と戦う、犯罪を予防する、野生の保護、ヘルスケアの改善、製造コストの削減、品質改善などのメリットにつながるという。中核になるのは「好奇心」だ。「好奇心は人間の進化の核心。アナリティクスにより人生を改善できる」と述べた。

  • SAS InstituteのCOOとCTOを兼任するOliver Schabenberger氏

データとさまざまなモノの接続が加速しているが、「IoTのデータを活用する上ではエッジでの処理が重要になってくる」とSchabenberger氏は予想する。「2019年、IoTデータの40%がクラウドやデータセンターに到達せず、デバイス、ネットワーク機器、ルーターなどで処理される」とSchabenberger氏。これは、SASが提唱する「アナリティクス・エコノミーを切り開く」という。

そして、AIが語られる際に問題になる「雇用」を意識してか、Schabenberger氏は学びの重要性に時間を割いた。「人の一生はもはや学習、その後の仕事と分かれていない。このモデルは古い。崩壊されたり、置き換わってしまったりすることを回避するためにも、継続して学び、成長しなければならない」と訴えた。

だが、雇用については「AIと自動化により新しい仕事がたくさん生まれる」と、楽観的な見方を示した。その例として、サイバーシティ・アナリスト、機械学習アナリスト、環境を構築するバーチャルワールド・デザイナーなどを予想した。

「将来には楽観している。人、会社、政府すべてにチャンスがある。データ主導の世界はアナリティクスによりさらに良いものになる」と述べ、今後もアナリティクスが優位性や差別化に重要な役割を果たすとした。

Schabenberger氏は現在のアナリティクス、データ管理の成熟が、コンピュータ、ストレージなどハードウェアとの関係に逆転現象を起こしている点にも言及した。「これまで、アナリティクスはコンピュータの進化に遅れを取っていた。だが、ハードウェアの価格が下がった一方性能は上がった。また、データが増えてきたことから、アナリティクスを行う環境が整い、現在はアナリティクスが技術を加速している」(Schabenberger氏)

アナリティクス、AIは産業を変換する崩壊的技術になっており、複雑な問題を解決できるようになった。継続して学ぶ人はこれを活用し、自動化するなど、これまで不可能だったことを実現できるという。

SASがフォーカスしているエリアは、これまでの強みであるアナリティクスに加え、AI、機械学習、データ管理、顧客インテリジェンス、詐欺とセキュリティ・インテリジェンス、リスク、それにIoTとクラウドアナリティクスとなる。差別化のポイントは「顧客との信頼関係」とし、「SASの目標は顧客に喜んでもらうことだ」と、Schabenberger氏は続けた。

会期中、SASは詐欺とセキュリティ・インテリジェンス部門の新設を発表した。詐欺、サイバーセキュリティに関するソリューションは以前から提供しており、強みとする分野だ。部門を率いることになったバイスプレジデントのStu Bradley氏によると、過去数年で最も成長している分野であり、顧客とのエンゲージを強めるために独立した部門を設けたそうだ。現在、25カ国400人体制だが、今後3年で100人を追加する計画だ。