試合が始まると観客はさらにヒートアップ。対戦相手のどちらかに肩入れするわけでなく、いいプレイには大きな歓声が上がり、ふがいない選手がスクリーンに映るとブーイングを浴びせるストレートなリアクションだ。同行したベテラン記者に話を聞くと、こうした敵味方関係なく盛り上がる応援はシドニーならではだという。

  • テンションが高いシドニーの観客

「Aussie Aussie Aussie!」「Oi Oi Oi!」のコールだけでなく、最終日のプレショーあたりから甲高い声で叫ぶ(カンガルーコール/ボイスというらしい)応援が加わったが、とにかく会場中が全力で盛り上がりたいという欲求に満ちていたように思う。

Intelが報道関係者向けに開いたラウンドテーブルで、同社がイベント開催地を決める要素として「第1にパッションのあるユーザーがいるかどうかが重要だ。オーストラリアは見てわかる通り、非常に熱い情熱を持ったオーディエンスが多い」と語っていたが、目の前で身をもって体験した。

会場の、熱気にあてられ前のめり

最初はいつものように取材の一環ということで、スタンドの端っこで会場の様子も含めて見ていたのだが、会場の熱にあてられどんどん姿勢が前のめりになってくる。ほかの観客と同じように声を上げて楽しむようになり、いつの間にかスタンドはスタンドだが正面に近い位置まで移動していた。

イベントに当たって事前に下調べをしてはいるのだが、現地で実際に見ると「あの選手の動きが違うな」とかキープレイヤーがわかってきて、より興味が湧いてくる。30台半ばのおじさんとしては、プレイそのものにも感動するが、20台前半の若人たちが真剣にプレイしているところを眺めていると、心にぐっとくるものがある。

  • スクリーンに映る選手たちは本当に真剣。ラウンドを取っても落としても表情を変えない。まさにプロ

今回ようやく高校野球や箱根駅伝にはまる人の気持ちがわかった。気が付くと「この子、西脇工業(駅伝の強豪校)出身なんだね」と話す人と同じニュアンスで、「この選手ってこういう経歴なんだなぁ」と口にしていた。

試合が終わってホテルに戻ってもTwitchで参加チームが関係している大会の動画をずっとチェックするようになってしまった。大容量のsimを契約しておいてよかった。

緊張と解放が繰り返されるCS:GO観戦の醍醐味

大会を通じて実感したのは、eSports競技としてのCS:GOの面白さだ。動いて、狙って、撃つ。そのシンプルさは初心者でもわかりやすい。「なぜいま倒されたんだろう」というのがあまりないように思う。もちろん上級者になればチームの連携や個々の選手が披露するテクニックなど楽しめるポイントが増える。つまり、観戦する分には間口が広く、奥深い魅力があるゲームだ。

  • CS:GO観戦の楽しさに目覚める

トータルの試合時間はけっこう長くなるものの、1ラウンドは1分55秒と短い。格闘ゲームでも同じことがいえるが、緊迫した場面と勝負が決まって緊張から解放される瞬間が繰り返されることで、興奮や快感が高まる。

観戦モードもよくできてる。プレイヤーキャラの姿がシルエットで表示されたり、それぞれの射線や投てき武器の軌道が見えたりすると、とても楽しい。観客にはスモークの先に敵がいることがわかっても、プレイヤーからはもちろん見えない。「ああ、そこにいるのに」「すぐそこにいるのにお互い気が付いてない」みたいなハラハラドキドキがそこにある。よく知らない人でも楽しめる環境なのだ。幅広い観客を集める理由もそこにあるのではないだろうか。

  • プレイヤーのシルエットが見えるとドキドキハラハラ

プロゲーマーとの交流も楽しそう……

試合の合間には参加チームの選手たちが、ファンサービスとしてサイン会を開催していた。どのチームにも行列ができていたのだが、人気チームになると1時間以上の待ち時間が必要とのことで、サインをもらうために試合そっちのけで並ぶというファンもいるらしい。

  • サイン列に並ぶファンたち

  • 展示ブースでラッキードローなども行われている

筆者もESLのグッズショップでシャツを買って、サインをもらおうかと思った(くらいハマった)のだが、仕事中なので泣く泣くあきらめた。

日本に大規模eSportsイベントが来る日

さて、日本への帰路につきつつ考えるのは「日本国内でIEMのような大規模イベントが開かれるには?」という疑問だ。実際イベントに使ってみると本当に楽しい。

前述したように日本におけるeSportsも少しずつ状況が変わってきている。かつては参加者=ゲームプレイヤーだったが、いまではゲームはプレイしないけど、選手のファンだからイベントにくるといったように参加者の層が広がっている。また、情熱を持ったコアなユーザーもいる。

長年コミュニティを運営する人、ずっとeSportsを追い続けてウォッチしている人もいる。そうした人たちの情熱はおそらくシドニーの観客と比べても負けていないと思う。

やはりカギになりそうなのは「規模感」だ。おそらくはコアな層、カジュアルゲーマーの層、ファンの層でそれぞれ規模の拡大が必要になると思う。また、それにともなって会場などのインフラ面でもさらなる充実が求められるようになるだろう。なかなか簡単にどうにかなる問題ではないが、何度も「eSports元年」を迎えつつ、活動を続けてきた人たちを見習って、少しずつでも前に進むことが重要なのかもしれない。

明るそうな話題といえるのが、2020年の東京オリンピックに向けて、Intelが日本でeSportsに注力する動きをみせていることだ。Intelはオリンピックのスポンサーであり、平昌でもeSportsイベントを開催した。日本でも仕掛けるとしたら、このタイミングだろう。

ラウンドテーブルでは「具体的に決まっていることはない」としながらも、IEM sydney 2018の会場には日本のインテル関係者が数多く参加していた。これまで日本ではPCメーカーなどがイベントを主催して、インテルそのサポートという形が多いのだが、これからはインテルが主導する形の取り組みが活発化するかもしれない。