東京大学(東大)は4月24日、自律型海中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)の「Tuna-Sand2」が海中における全自動生物サンプリングに成功したと発表し、同大の駒場リサーチキャンパスにおいて記者会見を実施した。会見では、メディア向けには初めて、Tuna-Sand2が公開された。

会見には、東大 生産技術研究所 海中観測実装工学研究センターのソーントン・ブレア准教授、西田祐也 協力研究員(兼:九州工業大学 若手研究者フロンティア研究アカデミー助教)、東大 生産技術研究所の浦環 名誉教授(兼:九州工業大学 社会ロボット具現化センター 特別教授)が登壇した。

  • 左から、東大 生産技術研究所の浦環 名誉教授、東京大学 生産技術研究所 海中観測実装工学研究センターの西田祐也 協力研究員

  • 今回公開された、自律型海中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)「Tuna-Sand2」。全長1.4m、重量380kg。浦環 名誉教授によれば、「見た目がツナサンドに似ていることが名称の由来」とのこと

これまでAUVは、海底の写真撮影や音響調査で能力を発揮し、海底調査などで新しい発見をもたらしてきた。しかし、通信機環境が悪い深海などでは、海底の生物や鉱物などの採取(サンプリング)が出来ないことが長年の課題であった。

Tuna-Sand2は、東大、九州工業大学(九工大)を中心とする研究グループによって開発された、海底でのサンプリングを得意とするAUV。研究グループは、2018年3月6日~13月0日の期間、駿河湾内清水沖において、自然環境下での、水深80m~120mにおける生物サンプリングに成功した。

  • 駿河湾内清水沖での試験の様子

Tuna-Sand2は、全長1.4m、重量380kgのホバリング型AUV。海底を3次元的にマッピングできる3Dマッピング装置、および海底に生息する生物検出用のカメラを搭載しているほか、サンプリング装置が追加されており、従来機では出来なかった、サンプルの採取ができることが特徴だ。

  • Tuna-Sand2のサンプリング装置の概要。スラスターの中にスクリューと弁がついており、スクリューを回すことでサンプル対象を採取することが可能だ

  • サンプリング装置の外観

実際にサンプリングに成功した際の調査シーケンスについて説明する。まず、Tuna-Sand2を船から海へと投入する。ちなみに同機は、重量が380kgであるため、小型船での運搬も可能であるといい、サンプリング実験では、総トン数18トンの船を用いて行われたとのこと。有人の探査船と比べ、可搬性が高いのはAUVの利点である。

入水したTuna-Sand2は自重で潜っていき、海底に近づいたら、ホバリングであらかじめ指定しておいたルート(ウェイポイント)に沿って探索を開始する。探索中には、事前に与えた捕獲対象の生物種の情報をもとに、搭載するカメラで海底面の画像を撮影し、サンプリング対象の生物と判断した複数の画像を、船上の研究者に音響通信で伝達する。

  • 海底での生物検出手法。生物は、海底と色や明るさ、模様が異なるため、それらの要素を掛け合わせ、「顕著性マップ」として表示する。研究者は、船上からその画像を確認し、回収したいサンプルを選択することで、AUVにサンプルのピックアップを指示することが可能

送られた画像中の対象の画像を研究者が指定すると、ロボットは撮影をした位置にまで戻り、対象の生物をサンプリングする。研究グループは今回、この一連の過程を繰り返すことで、全自動サンプリングに成功した。

  • 調査シーケンスのモデル図。海に投入されたTuna-Sand2は、自重で海底に潜り、Mode20で重りを外してホバリング航行しながらサンプルを探索、ピックアップする

  • 「Tuna-Sand2」によってサンプリングされた貝

資源調査や科学調査では、画像や音響データだけでなく、実物のサンプルが求められる。研究グループは今回の成果に関して、「自律型海中ロボットによる全自動画像撮影と全自動サンプリングを実現したことで、今後は、効率的かつ高精度に海底における生物や資源などを調査することが可能になると期待される」などとコメントした。

  • 「Tuna-Sand2」外観