4台のカメラと、特殊な軌道

こうした野心的な目的を実現するため、TESSにはさまざまな工夫が施されている。

TESSの寸法は直径1.2m、全長1.5mで、太陽電池パドルを広げた際の翼長は3.7m。質量は362kgと、衛星にしては小型の部類に入る。意外にも先代のケプラーより半分以上も小さい。

その先端部分には、高性能なカメラが4台搭載されている。カメラはMITリンカーン研究所が開発したもので、TESSのために設計された特殊なCCDやレンズ、そしてデータ処理ユニットがセットされている。これがTESSの目となって、数多くの系外惑星の発見を可能にする。

  • 打ち上げに向けた試験中のTESS

    打ち上げに向けた試験中のTESS。人と比べると、その小ささが際立つ (C) NASA

そして、ケプラーを超える探査を可能にするもうひとつの秘密が軌道にある。

TESSは近地点高度(地表に最も近い点)が10万7826km、遠地点高度(地表から最も遠い点)が37万3367km、そして月の軌道面から約40度傾いた、「P/2」と名付けられた軌道で運用される。このP/2軌道は月と2:1の共鳴をなしており、月が地球を1周する間に、TESSは2周する。また月の重力の影響で、TESSはつねに月から約90度離れたところを飛び続ける。地球から見ると、月の動きと合わせて、つかずはなれず移動しているように見える。

こうした特徴により、TESSの視野に地球や月が入ることなく、つねに天を見続けることができる。

また、近地点高度と遠地点高度がヴァン・アレン帯(地球の周りにある放射線帯)よりも上空にあるため、電子機器などへの影響も防げる。衛星に入ってくる熱量もほぼ一定にできるので、急激な熱の変化に弱いカメラにとってはありがたい。

さらに月の重力のおかげで軌道が安定するため、TESSが運用期間である2年間はもちろん、今後何十年にもわたって、ロケットエンジンを使わずに、この軌道にとどまり続けることができる。

TESSが近地点に近づいたときには、観測を中断し、それまでに集めたカメラの撮影データを地球に送る。軌道の関係上、他の探査機などに比べると地球にかなり近づけるため(ちなみにケプラーは地球からつねに1億kmほど離れている)、撮影した画像全体を一度に送信できるほどのデータレートを発揮できる。

TESSの研究員を務めるMITのGeorge Ricker氏は「この軌道により、TESSの通信は高いデータレートをもち、カメラで撮影した画像全体を送信することができます。こんなことは以前は不可能でした」と語る。

  • 地球と月を背景に飛ぶTESSの想像図

    地球と月を背景に飛ぶTESSの想像図 (C) NASA GSFC

次世代の望遠鏡たちとタッグを組んで

TESSはもちろん、それ単体でも多くの成果が得られるが、重要なのは他の地上や宇宙にある望遠鏡と協力することによって、系外惑星をより詳しく探査できるということにある。

前述のように、TESSはケプラーよりも地球に近く、そして明るい恒星を観測する。そのため、TESSによって発見された系外惑星やその候補は、地上にある望遠鏡でも観測しやすい。これにより、TESSの成果が裏付けられたり、その惑星の特性についてさらに詳しく調べたりといったことができる。

TESSの"相棒"としてとくに大きな期待を集めているのが、NASAが開発中の次世代の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」(JWST)である。JWSTは赤外線を使って宇宙を観測することを目的としており、宇宙で最初に生まれた星と考えられている「ファースト・スター」の発見をはじめ、系外惑星の観測にも活用される。

JWSTはある一点に集中して、事細かに観測するように造られているので、無数の恒星の中から系外惑星を"探す"ことはできない。そこで、TESSによってめぼしい系外惑星を探し、JWSTでそれを観測する、という使い方が考えられている。

JWSTの開発はやや遅れているものの、今のところ2020年に打ち上げが予定されている。うまくいけばあと数年で、今まで見たことのない系外惑星の姿が明らかになるかもしれない。

  • ></span>NASAが開発中の次世代の宇宙望遠鏡JWSTの想像図

    NASAが開発中の次世代の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」(JWST)の想像図。2020年の打ち上げが予定されている (C) NASA/Northrop Grumman

さらにNASAでは、JWSTの後継機となる「WFIRST(Wide Field Infrared Survey Telescope)」や、新しい系外惑星探査機「ニュー・ワールズ・ミッション」(New Worlds Mission)の検討も進んでいる(もっとも予算が認められるかはわからず、とくにWFIRSTは、トランプ政権によって中止される可能性も出てきている)。

欧州宇宙機関(ESA)でも、今年の末に系外惑星の発見を目指した宇宙望遠鏡「ケオプス」(CHEOPS)の打ち上げが予定されており、さらに2020年代の打ち上げを目指し、「アリエル」(Ariel)や「プラトー」(PLATO)といった系外惑星探査衛星の検討が進められている。

この宇宙のどこかに第二の地球があるのかという問いは、TESSだけでは答えることはできない。けれども、さまざまな望遠鏡や探査機との協力によって、あるいはTESSの成果を受け継いだ後継機によって、いつかはその答えがわかるかもしれない。

それはまだ何十年も先の話になるだろうが、人類がもうひとつの地球の存在に恋い焦がれてきた歴史の長さと比べれば、意外にあっという間かもしれない。

参考

NASA Planet Hunter on Its Way to Orbit | NASA
About TESS | NASA
TESS Fact Sheet
Operations - TESS Science Support Center
Mission overview | NASA

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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