2014年の墜落事故

そして遅れが決定的となったのは、墜落事故だった。2014年10月31日朝(日本時間11月1日未明)、試験飛行中だったVSSエンタープライズが空中分解し、搭乗していた副操縦士のマイケル・アルスベリー(Michael Alsbury)氏が死亡。機長のペーター・シーボルド(Peter Siebold)氏はパラシュートで脱出したものの、重傷を負った。

事故を調査した米国国家運輸安全委員会(NTSB)によると、事故の原因は、副操縦士のアルスベリー氏が訓練不足により、フェザーを予定より早い段階で起動してしまったこと、そして同機を開発したスケールド・コンポジッツが、そうしたヒューマン・エラーに対する配慮や対策を十分に行っていなかったことの2点が挙げられている。

フェザーはもともと勝手に起動しないようにロックがかかっており、あるタイミングでそのロックを解除することになっていた。しかし、アルスベリー氏はそれよりも早いタイミングで解除してしまい、空気の力によって翼が自然に立ち上がり、やがて負荷に耐えきれず空中分解に至ったとされる。

また、設計したスケールド・コンポジッツに対しては、こうしたヒューマン・エラーが起こることは十分に予期できたはずだと指摘。さらに、なんらかの安全機構を設けることで、たったひとつのヒューマン・エラーによってフェザーが不意に展開されてしまうことも防げたはずだと指摘している。同時に、操縦士に対して、フェザーのロックを早期に解除することの危険性を理解させる努力を怠っていたことも指摘している。

この事故と、それを受けた改良によって、スペースシップツーの計画は大幅に遅れることになった。

  • スペースシップツーは主翼を折り曲げることで再突入時の安定性を高める「フェザー」という独特な機構をもっている

    スペースシップツーは主翼を折り曲げることで再突入時の安定性を高める「フェザー」という独特な機構をもっている。2014年の事故では、このフェザー展開にかかわる安全機構や意識の欠如が原因となったとされる (C) Virgin Galactic / MarsScientific.com / Trumbull Studios

2号機「VSSユニティ」

2016年2月19日、ヴァージン・ギャラクティックとザ・スペースシップ・カンパニーは、スペースシップツーの2号機を完成させ、公開した。この2号機には、物理学者のスティーヴン・ホーキング氏によって、「団結」や「結束」を意味する「VSSユニティ」(Unity)という名前が与えられた。

VSSユニティはもともと2012年から建造が始まっていたが、1号機の事故を受けて改良が加えられた。また機体の色も銀色が加えられるなど変化している。

同機は2016年9月8日から飛行試験を開始し、1号機の実績があったにもかかわらず、まずはホワイトナイトツーと結合したままの状態で飛行し、12月から滑空飛行を始めるなど、慎重にことを進めた。

そして2018年4月5日、VSSユニティは、カリフォルニア州にあるモハーヴェ宇宙港を飛び立った。そして同機にとって12回目の飛行にして初、そしてスペースシップツーにとっては2014年の事故以来となる、ロケットに点火しての試験飛行を実施した。このロケットは、設計が二転三転したロケット・エンジンの完成形となるもので、何度かの地上燃焼試験を経て、今回初めて実際の飛行で使用された。

VSSユニティは最大高度2万5686m、速度はマッハ1.87に達し、フェザーも問題なく動き、無事にモハーヴェ宇宙港へ着陸した。

ヴァージン・ギャラクティックはこの飛行後、「この飛行は我々にとって大きな一歩です。この飛行はVSSユニティの飛行試験計画の、最終段階が始まったことを意味します」との声明を発表している。

  • ロケット飛行するVSSユニティ

    ロケット飛行するVSSユニティ (C) Virgin Galactic

宇宙飛行と商業飛行はいつ始まる?

同社は今後もロケットを使った飛行試験を行い、やがて宇宙空間への飛行も実施し、そして商業飛行を開始するという流れになるだろう。初の宇宙飛行は2018年中にも行われるという話もあるが、具体的なスケジュールは今のところまだ発表されていない。

ヴァージン・グループを率いるリチャード・ブランソン氏も、かつては宇宙飛行や商業飛行の開始時期について楽観的な発言を繰り返していたが、年々遅れる見通しを前に、最近では明言を避けている。

また、難航する開発と2014年の事故は、宇宙飛行の難しさを改めて知らしめることになった。今なお、スペースシップツーに未知のリスクが潜んでいる可能性は否定できない。

さらにライバルの存在もある。同じサブオービタルでの宇宙旅行は、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏率いる宇宙企業ブルー・オリジン(Blue Origin)も狙っている。同社の「ニュー・シェパード」(New Shepard)は、ロケットの上に宇宙船が載った、昔ながらのスタイルで、まだ人を乗せて打ち上げたことはないものの、すでに8回の宇宙飛行を行い、宇宙船やロケットの回収、そして再使用にも成功している。早ければ2018年中にも有人飛行を行う予定とされ、試験の進捗度ではヴァージン・ギャラクティックを追い抜くかもしれない。

もっとも、明るい話題もある。2017年10月、ヴァージン・グループは、サウジ・アラビアの政府系ファンドPublic Investment Fundから、同グループの宇宙事業に対して10億ドルの出資を受けることで覚書を締結したと発表している。ヴァージン・グループはブランソン氏が率いていることからしても、少なくとも宇宙ベンチャーがよく直面する資金面の問題は心配ない。

また、遅れはありつつも、開発や試験は進み続けてきた。サブオービタル飛行は軌道飛行と比べると比較的実現しやすいこと、そしてすでに同じ技術で造られたスペースシップワンが宇宙まで到達した実績があることからすれば、時間はかかっても、いつかは実用化までこぎつけることができるだろう。

ブルー・オリジンの存在も、同じサブオービタルの宇宙旅行という市場でお互いが競い合うことで、安全性の向上や低コスト化などが進むことが期待できる。

2014年の悲劇的な事故を乗り越え、スペースシップツーは大空へ舞い戻った。そして今回、ロケット飛行に成功したことで、試験の進み度合いはVSSエンタープライズの事故の直前まで、それも事故を受けてさらにタフになって帰ってきた。

これまで何度となく、「スペースシップツーが宇宙に到達し、実際に乗客を乗せて飛ぶ日もそう遠くはない」と言われ続けてきたが、今ようやく、何度目かの正直として、そう言うことができるかもしれない。

  • ロケットで大空を駆け上がるVSSユニティ

    ロケットで大空を駆け上がるVSSユニティ (C) Virgin Galactic

参考

Virgin Galactic - VSS Unity First Powered Flight
Learn - Virgin Galactic
SpaceShipTwo - The Spaceship Company
WhiteKnightTwo - The Spaceship Company
Lack of Consideration for Human Factors Led to In-Flight Breakup of SpaceShipTwo

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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