初めてペイロードを搭載

そしてもう1つ大きな点として、2号機ではただロケットを打ち上げるだけでなく、初めてペイロード(搭載機器)を搭載したミッションが行われるということがある。

搭載されるのは、高知工科大学の総合研究所インフラサウンド研究室が開発した「インフラサウンド・センサー」と呼ばれる観測装置。インフラサウンドとは、人間の耳には聞こえない超低周波音のことで、災害をもたらすような大規模な物理現象によって発生する。そのため、この音を詳しく研究できれば、防災などに大きく役立つと考えられている。

また、地球の大気中を遠方まで伝わる性質をもつため、ロケットなどによって、遠くで発生した音を捉えることもできる。

MOMO 2号機に搭載されるセンサーは名刺ほどの大きさで、厚さは2cmほど。地球内部から発する音を、約4分間の無重力状態の環境で計測することを目指す。

高知工科大学によると、このセンサーによって得られる実験データは、津波、雷、台風、噴火などの災害に繋がる自然現象を、音波で調べる技術の向上に大きく寄与するとしている。

  • 先端の赤い部分の中に観測装置が搭載される

    この先端の赤い部分の中に観測装置が搭載される (C) インターステラテクノロジズ

待ったなしの開発競争

ISTではまた、MOMOの開発と並行して、小型の人工衛星を打ち上げられるロケットの開発も行っている。コード・ネームは「ZERO」と呼ばれており、2020年ごろの打ち上げを目指しているという。

いっぽう、こうした小型衛星打ち上げ専用のロケットは世界中で開発が行われており、競争が始まっている。

すでにニュージーランドに拠点を置く米国企業ロケット・ラボ(Rocket Lab)は、2018年1月に超小型ロケット「エレクトロン」(Electron)を打ち上げ、衛星の軌道投入に成功。この競争の中で一歩抜きん出た。次の打ち上げからは早くも商業打ち上げの段階に移行することになっている。

また、英国ヴァージン・グループの1つであるヴァージン・オービット(Virgin Orbit)も、超小型ロケットの開発が大詰めを迎えており、今年中の打ち上げを狙っている。他にも数年以内に打ち上げにこぎつけようとしている企業がいくつもあり、そのうちのいくつかは、エレクトロンに続いて商業打ち上げができる段階までたどり着くだろう。

こうした中で、ISTのZEROの打ち上げができるのは早くとも2020年、開発が遅れればそれ以降と、やや遅れを取っている。

小型・超小型衛星の市場は今後大きく拡大すると考えられており、それにともなってZEROのような超小型ロケットの需要も高まるのは間違いない。しかし、いくつもの企業が先行してロケットの開発に成功し、それらが市場に出尽くしてしまえば、後発組が参入できる余地は小さくなる。

  • ニュージーランドに拠点を置く米国企業ロケット・ラボ

    ニュージーランドに拠点を置く米国企業ロケット・ラボは、今年1月に超小型ロケット「エレクトロン」を打ち上げ、衛星の軌道投入に成功した (C) Rocket Lab

ISTと大樹町がもつ売り

ただ、ISTには大きな売りがある。

他のロケットの多くは、新基軸のエンジンを使ったり、炭素繊維複合材などを用いたりして高い性能をもったロケットを開発し、さらに3Dプリンタなどの最新技術を使って、低コストかつ高頻度に製造、打ち上げをしようとしている。ロケット・ラボのエレクトロンなどはまさにその代表例である。

いっぽうでISTは、あえて最高性能を狙わず、枯れたシンプルな技術、構成を採用している。また、ロケット・宇宙専用の部品を使うのではなく、巷にあるような民生部品、汎用部品を数多く採用している。ISTはよく「他のロケットはフェラーリ、自分たちのロケットはスーパーカブ」というたとえを用いて、この違いと利点を説明する。さらにロケットの内製率も高い。

これにより、エレクトロンなど他とは異なるアプローチで、高頻度・短期間での打ち上げを実現するとともに、いままでより一桁安い打ち上げ費用を達成することを狙っている。

さらに、ISTが拠点を置く北海道大樹町は長年、JAXAの実験施設があるなど、航空・宇宙との結びつきが強い。そのため、町として宇宙事業に対する理解があり、支援する体制も整っており、理想的な環境だという。ロケット開発には失敗や、それを受けた改良といった試行錯誤を、素早く何度も繰り返すことが重要だが、ISTがそれを実現できている――たとえば1号機の打ち上げから2号機による再挑戦まで約9か月しかかかっていないのは、こうした町側の理解と、それによる実験環境のよさがあってのことだという。

また大樹町は、内之浦と種子島などに比べ、打ち上げに適した場所でもある。静止軌道への打ち上げではやや不利なものの、地球低軌道への打ち上げはほぼ同等。そして南方向に飛ばす必要がある極軌道への打ち上げでは、南側が完全に開けているためとても有利で、内之浦や種子島よりも効率よく衛星を打ち上げられる。

つまりロケットの開発にも打ち上げにも大樹町は最適な場所で、そこにISTが拠点を構えていることこそが大きな利点となっている。

課題、そして期待

もちろん課題もある。中でもいちばん大きなものは、ISTのみならず、日本の宇宙ビジネス全体をとりまく環境、状況が決して恵まれていないということだろう。日本の大富豪、大企業は宇宙事業にあまり関心を示しておらず、宇宙ベンチャーへの投資は、数も金額もまだまだ少ない。

米国などの宇宙ベンチャーには、ベンチャー・キャピタルや大手企業、政府機関などが積極的に支援し、多額の資金が流れている。前述したロケット・ラボは評価額10億ドルを超えるユニコーン企業で、もはやベンチャーとさえ呼べない。また、国がアンカーテナンシー(下支え)となって、ベンチャーが開発したロケットや衛星の顧客となったり、法律面や技術協力などで支援したりといったことも積極的に行われている。それを背景に、人材の流動性も高い。

今後、日本のロケット企業が発展し、世界と張り合っていけるようにするためには、こうした米国のような、宇宙ベンチャーがすくすくと育つ環境を整える必要があろう。

折よく3月20日には、安倍晋三首相が、宇宙ビジネスに今後5年間で約1000億円のリスクマネー供給を目指すこと、また宇宙ベンチャーとJAXA・民間企業との人材の流動性を高めることなどを定めた、政府・関係機関が一丸となって宇宙ベンチャーを支援する方針を発表した。

ISTをはじめ、熱意とユニークなアイディアをもった宇宙ベンチャーは日本でもいくつも出てきている。そうした企業と、この国の方針がうまく両輪となって機能し、さらに多くの資金と人の流れを呼び起こすことができれば、日本の宇宙ベンチャーも大きく育ち、他国の企業と張り合えるようになる可能性がある。逆にいえば、そのためにはいますぐ動き出さなくてはならない。

  • MOMO 2号機と、打ち上げに向け意気込む関係者達

    MOMO 2号機と、打ち上げに向け意気込む関係者達 (C) インターステラテクノロジズ

参考

観測ロケット「MOMO」2号機機体公開及び打上日に関する記者会見 - YouTube
2017年MOMO初号機打上げ報告書
IST サウンディングロケット「モモ」ユーザーズガイド
日本初の民間観測ロケット「MOMO2号機」でインフラサウンド実験 | NEWS & TOPICS | 高知工科大学
インフラサウンド研究室 | 総合研究所 | 研究 | 高知工科大学

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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