次世代移動通信システム「5G」。海外では、早いところで2019年以前に5Gの商用利用が始まる予定です。情報通信総合研究所は29日、現地時間2018年2月26日~3月1日にかけ、スペイン・バルセロナで開催された世界最大級の通信関連イベント「Mobile World Congress 2018」(WMC 2018)で見た、5Gの現状と今後の展望を発表しました。
発表会では、ここ10年ほどMWCを追いかけているという、情報通信総合研究所 主任研究員の中村邦明氏が登壇。スマートフォンメーカーやキャリア、チップ製造ベンダ、通信機能を取り入れつつある車メーカーなど、モバイルに関する企業が集ったMWC 2018を振り返りながら、日本、そして海外の5Gの状況が紹介されました。
そもそも5Gって何?
次世代移動通信システム「5G」は、いま日本で使われているLTEや、LTE-Advancedの次に予定されている通信規格です。その特徴は、LTEと比べ「通信の大容量化」や「高速化」、「低遅延」、そしてLTEの100倍ともなる「同時に接続できる端末数の拡大」(同時他接続)など。5Gを導入することで、例えば混雑による「スマホがつながらない問題」や、動画を見る際に「大容量すぎて映像が止まる問題」などを解消できると考えられています。
5Gは現在、技術仕様の策定が進んでいます。2017年12月には、5Gの仕様を取りまとめる「リリース15」の中のNSA(ノンスタンドアローン)と呼ばれる部分の(初版)策定が完了。ただ、このNSAは文字通り、5G単体では動作せず、通信に必要な一部のコントロールを既存のLTE網で行うものです。LTEとは独立して動作するSA(スタンドアローン)の仕様策定は、2018年6月までを目指しています。
IoTデバイス向けの同時多接続については、2019年12月までに完了を見込む「リリース16」で策定される予定で、このリリース16で5Gの標準化は終了します。
日本と世界の5G、どうなってる?
5Gの規格策定が進んでいる最中のいまは、世界中でキャリアごとの独自仕様による技術開発が進んでいる状況です。この中で、早期の導入を積極的に進める米国では当面、高速化や大容量通信といった特徴を備える独自のプレ5Gによる商用サービスが開始する形となり、日本や韓国では2020年以降に、策定後の規格に準拠した5G商用サービスの導入が予定されています。
世界的に見ると、5Gの利用を積極的に進めているのは米国キャリアだと、情報通信総合研究所の中村邦明氏は言います。米国4キャリアでは、いずれも2018年内に独自5Gによる商用サービスを展開する予定です。
SprintとT-Mobileでは、2019年上半期に5Gスマートフォンを提供する予定です。一方、VerizonやAT&Tでは、固定回線の代わりとして、家の近くにユニットを設置する5G FWA(固定無線アクセス)の導入を、2018年内に見込んでいます。
韓国では、2018年2月9日から25日まで行われた平昌五輪で、5Gに関する大規模な実証実験が行われました。韓国の大手キャリアKTは五輪会場内でテスト用の5G電波を飛ばし、これを使ったリアルタイムの高解像度映像配信を実施。また、端末メーカーのサムスンは、5Gに対応したタブレットを会場内で展示していました。韓国では2019年内の商用サービスが予定されています。
欧州では、2020年以降の商用サービスが見込まれています。Vodafoneは2017年からイタリア・ミラノで大規模な5G実証実験を実施。また、ドイツテレコムは、"インフラ"としても有用な5Gにおいて、通信料以外のビジネスモデルを提言しています。例えば、通信機能を備えたスマートパーキングでは、個々の通信料を徴収するシステムではなく、月売上の何%を支払うといったように、駐車場を経営する企業と共同でレベニューシェアを導入するなど、新しいビジネスモデルの必要があるとしています。
日本でも、5Gは2020年以降の商用サービスが見込まれており、キャリアだけでなく端末メーカーも、2020年の東京五輪に向けた5Gサービスの実現を目指しています。ドコモ、au、ソフトバンクの3大キャリアは、独自5Gによる実証実験を数年前から実施。VR映像の同時共有・配信実験や、スタジアムで大容量コンテンツを同時多数配信する実験など、サービスの開始時期が近づくにつれ、より具体的な利用シーンに近い試用が行われています。
2,400社以上が出展したMWC 2018の中で、国内企業は20社ほどでしたが、中村氏はそのなかでも、「NTTドコモの5G展示が話題になっていた」と振り返りました。
キャリアで5Gが導入されてから、対応デバイスや価格面での普及を踏まえると、日本はもとより、2018年や2019年に商用サービスを展開する予定の国でも、実際には2020年以降に5Gの普及が進むのでは、と中村氏は話しました。