宇宙科学でがん幹細胞の場所や数を特定

では、この連携拠点でどのような取り組みが行われていくのか。4月1日時点の同拠点の主な構成メンバーは、Kavli IPMUから5名(うち1名は国立がん研究センターから異動される医師で、Kavli IPMU初の医師となるという)、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)から4名。そして、慶応義塾大の佐谷教授、ならびに東大薬学部の浦野泰照 教授の合計11名となっているが、Kavli IPMUからは加速器で粒子をぶつけて得られる光をイメージング解析する技術を、JAXA/ISASからはX線天文衛星「ひとみ(ASTRO-H)」で培った硬X線・ガンマ線検出のためのイメージングデバイス技術をそれぞれ持ち寄り、佐谷教授や浦野教授といった医学側のニーズに対応する体内から放出される硬X線・ガンマ線を検出するシステムの開発が行われていくこととなる。

具体的なシステムの仕様としては、「最先端の硬X線ならびにガンマ線に対応する宇宙観測センサ技術を、生体内に投与した放射性同位体(RI)の100μm以下の精度で3Dイメージングすることを可能とするシステム」(同連携拠点の指揮を執る予定のKavli IPMUの相原博昭 主任研究員)とのことで、これと、佐谷教授らが開発するがん幹細胞に効果を発揮する薬剤の一部の分子を半減期の短い放射性同位体(RI)に置き換えた抗がん剤を組み合わせることで、RIから放射される硬X線やガンマ線を測定。これにより、どこの部位(がん幹細胞)に、どの程度の薬剤が届いて、どの程度の効果を発揮しているのかが分かるようになる。

  • RIでラベリングした薬剤から放射されるX線やガンマ線を体外の測定器で測定する

    生体内のRIを100μmの精度で体外から3Dイメージングすることができれば、手軽にどこにどの程度のがん幹細胞があるのかがわかるようになり、治療計画の策定に役立てることができるようになる (C)Kavli IPMU/相原博昭

とはいえ、研究段階からいきなり人で試すわけには行かないため、初めは小動物を用いた研究として進められる予定だという。そのための計測システムとして、ASTRO-Hの開発の際に生み出されたCdTe素子を用いた高性能な硬X線・ガンマ線検出技術を用いたおよそ30cm角の「高分解能3Dマルチピンホール型SPECT(Single photon emission computed tomography:単一光子放射断層撮影)装置」ならびにおよそ10cm角の「高分解能Si/CdTeコンプトンカメラ」が開発され、この結果が良好であれば、人での治験に向けたシステムの大型化などが行われていくロードマップとなっている。すでに個別の基礎技術は揃っていることから、「システムの開発は2年程度をめどに終える計画で、3年目あたりから、実際のデモを見せることを可能にしたい」と相原氏は述べており、すでに最終的なゴールも見えているようだ。

  • 生体内部の様子を観測できることが、医学の発展につながる

    宇宙を飛び交うX線やガンマ線を観測するセンサ技術が、医学・薬学の研究機器として活用されることで、医学分野の基礎研究を次のステージに引き上げることを可能とする (C)Kavli IPMU/相原博昭

  • 体内から放出されるX線・ガンマ線測定のために2つの装置を開発する

    開発が予定されているのは、高分解能3Dマルチピンホール型SPECT装置と、高分解能Si/CdTeコンプトンカメラ。マウスなどの小動物サイズのものを開発するが、技術ができれば、それを大型化することで人間にも適用することが可能となる (C)Kavli IPMU/相原博昭

また、佐谷教授も、「がん幹細胞から生み出されるがん細胞も多種多様。1つの腫瘍の中でも異なった細胞で構成されていることが知られているが、それらを識別できるようになれば(従来のPETでは1種類のみの特定、CTにいたっては形状の測定)、これまでの診断装置と比較して、すごい装置になることが期待される」と期待を述べており、実用化を進め、多くのがん患者の治療につなげることができればと期待を述べている。

なお、相原氏は、「基礎科学と社会が結びつき、社会が何を求めているかを基礎科学側が理解して、その解決策を提供することを最初から行おうというのが今回の研究の目的。JAXAの技術が社会に広がるための支援を行っていくことに加え、社会からの要請もこの連携拠点で吸収して、それをJAXAに還元していく、という双方向の連携が実現されることを期待する」とも述べており、その最初の取り組みとして、今回の研究の成果をある程度の時期をめどに披露することで、基礎科学が重要であることを広く社会に示していきたいともしていた。

  • 連携拠点の枠組みと、そこからの発展イメージ

    連携拠点の枠組みと、そこからの発展イメージ (C)Kavli IPMU/相原博昭

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    JAXA - Kavli IPMU/東京大学 硬X線・ガンマ線イメージング連携拠点のキーマンの面々。左から、Kavli IPMUの相原 主任研究員、慶応大の佐谷 教授、JAXA/ISASの常田佐久 所長、Kavili IPMUの村山 機構長