講演を行うJack Dongarra教授

ワークショップで基調講演を行うJack Dongarra教授

理化学研究所(理研)で開催された「New Horizons of Computational Science with Heterogeneous Many-Core Processors」と題するワークショップにおいて、冒頭の基調講演を行ったのは、Jack Dongarra教授である。TOP500を主宰するテネシー大学のJack Dongarra教授は、スパコン業界ではもっとも有名な先生である。

TOP500誕生の背景

スパコンが台頭してくると、標準的に使える線形代数の計算パッケージが欲しいということで、1975年に開発に参加する5名のメンバーが集まった。Dongarra先生は、その1人である。

そして、1976年にソフトウェアの最初のドラフトができ、1977年6月にLINPACKのユーザーガイドが作られ、1978年11月に初版のLINPACKライブラリがリリースされた。

スパコンでLINPACKが使われるにつれて、いろいろなスパコンでLINPACKを実行した場合の性能値がDonngarra先生のところに集まるようになり、1984年にそれらの値をまとめたLINPACK Benchmark Reportが作成された。このリストには約70システムが載っていたという。

当初は、100行100列の行列を解いていたが、スパコンの性能が上がってくると実行時間が短くなり精度の高い時間の測定が難しくなってきたので、1000行1000列の行列を解くように変更した。

しかし、スパコンの性能がさらに上がると、これでも実行時間が短くなったので、行列のサイズは任意ということにして、実行時間ではなく、Flops/秒を性能の指標とすることに変更して今日に至っている。

一方、ドイツのManheim大学のHans Meuer教授は、スーパコンの市場規模を調べるために各地に設置されたスパコンのリストを作成しており、1986年に、今日のISCの前身となるMannheim Supercomputer Seminarを開催して、その結果を発表した。

当初はLINPACKとスパコンの出荷台数とは無関係のアクティビティであったが、1992年にMeuer教授から、Dongarra教授に両者の活動をTOP500としてまとめようという提案があり、1993年6月に最初のTOP500リストが生まれた。

トップクラスのスパコンでも性能の賞味期限は6~8年

そして、2018年の現在、ペタFlopsのスパコンは181台に達している。いろいろなアーキテクチャのスパコンが作られたが、現在のスパコンシステムでは、3種類のアーキテクチャが生き残っている。1番目は、IntelプロセサなどのコモディティCPUだけを並べるアーキテクチャ、2番目は、コモディティCPUにGPUのようなアクセラレータを付けるアーキテクチャで、このタイプは101システムで採用されている。3番目は、計算処理に特化した軽量コアを使うアーキテクチャで、IBMのBlueGene、IntelのKnights Landing、そして、中国の太湖之光、日本のPEZY-SC2がこのタイプである。

過去のスパコンは、研究所や大学への設置が中心であったが、新しい使い方の分野でのスパコンへの関心が高まっており、現在では、TOP500の半分のシステムが企業が持つシステムとなっている。

そして、エクサスケールのプロジェクトがアメリカ、ヨーロッパ、中国、日本で進められている。

  • スーパーコンピューティングの現状

    スーパーコンピューティングの現状 (このレポートのすべての図は、ヘテロメニーコアワークショップでのDongarra教授の講演スライドを撮影したものである)

次の図の3つの線は、上から、TOP500リストに載った500システム全部のFlops/sの合計、TOP500 1位のシステムのFlops/s、最下位のシステムのFlops/sの年次推移をプロットしたものである。

この図は、TOP500の1位のシステムも6~8年経つとTOP500最下位の性能レベルになり、TOP500リストから消えていくことを示している。つまり、TOP500 1位という卓越したスパコンでも、賞味期限はせいぜい6~8年であることを示している。

最初のTOP500リストで1位のシステムの性能は59.7GFlopsであったが、Dongarra先生のラップトップPCの性能は166GFlopsであり、当時のスパコンの3倍近い性能になっているというように進歩が速い。

  • スパコンのHPL性能の推移

    スパコンのHPL性能の推移。一番上の線はリストに載った全部のスパコンの性能の合計。2番目の線は1位のスパコンの性能。3番目の線は500位のスパコンの性能である。1位のスパコンも6-8年で500位の性能となりリストから消えていく

次の表は、2017年11月のTOP10システムのリストである。1位は中国の太湖之光、2位も中国で天河2号、3位がスイスのPiz Daint、4位が日本の暁光、5位~8位が米国、9、10位が日本となっている。

  • 2017年11月のTop10システム

    2017年11月のTop10システム。1位の太湖之光がダントツの性能を持つ。そして1、2位が中国、3位がスイス、4位が日本となっている