山川氏は、オフィス設計でクライアントからの要望について「スターバックス風やロンハーマン風、西海岸風という依頼が多い」と苦笑いする。もちろん、雰囲気が仕事に対するマインドを変える要素はあるだろう。だが、それはあくまで副次効果であって本質ではないし、あくまで本質を捉えた後の「最後に決めるべきスタイルだ」と山川氏は話す。

例えば社員のコミュニケーションを増やすことを考えて会議室を増やしたいといった要望がある。だが、それが成果に繋がるのかと言えば箱を無駄に増やすだけで、むしろ「普段からコミュニケーションを容易に、多様なメンバーで議論できる立ち会議の場を作った方がいい」(山川氏)。

  • イケてるオフィス、はあくまで最後の味付けだ

Agoopはビッグデータの解析・販売という「クライアントが求めるデータ加工・分析」が重要になる。そのため、営業とエンジニアの距離が可能な限り近くで顧客目線を貫かなくてはならない。

「移転前は、(親会社の)ソフトバンクのオフィスで仕事する営業が多かったんですが、移転後はメンバーみんながオフィスに集うようになりました(笑)。我々は機械的な営業・技術であってはいけない。一緒に話してちゃんと顧客に寄り添って改善を続けないといけない。移転して2カ月弱ですが、顧客課題に対して、技術的にフィットしたものをより一層出せるようになってきたという手応えはありますね」(加藤氏)

  • 立ちながらミーティングする加藤氏ら。カジュアルに議論できる場があるからこそ、コミュニケーションが活性化できると話す

文祥堂がワークショップで描いたオフィスのイメージ、実はコンペで他社にも共有されていた。「そこは公平にやらなくてはいけないですから」と山川氏は語るが、そうやすやすとできるものでもない。ただ、文祥堂としては手応えがあった。それは「オーナーシップ」だ。

「最終的に、Agoopさんの満足度は、これまでで一番高いものでした。何故かというと、自分たちで作り上げたオフィスだから。文祥堂としても、『文祥堂の提案』ではなく、『文祥堂とAgoopの提案』として捉えていた。オフィスづくりの正解を知っているのはデザイナーや設計ではなく、お客さま。そのお客さま自身が自分たちの手で作り上げたイメージだから、良いものが出来上がるんだなと」(山川氏)

Agoopの加藤氏も、その意見に賛同した上で、「コンペで他社に見せたレポートですが、やはり最終的なアウトプットは、共に作り上げてきた文祥堂さんと大きく異なるものでした。フォーカスすべきポイントを握っていることは、Agoop、文祥堂の双方にとって大きかった」と話す。

Agoopのオフィスでは、最初に加藤氏らが望んだ通り、木の素材をふんだんに利用することになった。国産木材を利用して、机は高知四万十のひのき、床が岡山西粟倉村の杉、照明には福島の杉を利用した。顧客の要望をうまく抽出するのみならず、大命題も叶える。単なる「オフィスづくり」の枠を超えた「働き方改革」を実現する文祥堂の取り組みは、緒に就いたばかりだ。

  • 文祥堂は、国産木材をふんだんに利用したオフィス家具も手がけている