アニメ業界関係者同士の情報交換、および人材交流を目的とした「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF) 2018」が2月10日、開催された。そのなかで行われたクリーク・アンド・リバー社によるセッション「ショートアニメの制作とツールを活用した効率的なデータの連携について」では、クラウドストレージサービスDropboxをアニメ制作の進行管理に活用する方法が語られた。

同セッションには、クリーク・アンド・リバー アニメプロデュースチームより、石川学プロデューサー(右)と、山下清悟ディレクター(左)が登壇した

同セッションには、クリーク・アンド・リバー アニメプロデュースチームより、石川学プロデューサー(右)と、山下清悟ディレクター(左)が登壇した

クリーク・アンド・リバー社というと、クリエイティブ業界の人材に特化した企業というイメージが強いが、8年前ほど前からゲームの運営アウトソーシングにも進出。現在は自社のゲームスタジオに350名以上のクリエイターを抱えるコンテンツ制作会社としても存在感を増している。

2015年にはオリジナルIP創出を目標にアニメ・シナリオチームを立ち上げ、現在は本セッションにも登壇した監督・演出の山下清悟氏を中心に原画チームも動いているという。

同社の制作現場はデジタル化が進んでおり、データによる管理が中心だ。デジタル化のメリットについて、登壇した同社 アニメプロデューサーの石川学氏は「スタッフ全員でデータを共有でき、進捗状況をスタッフやクライアントとも共有しやすい」と語る。

データ管理に同社が活用しているのが、クラウドストレージサービスのDropboxだ。

  • ビジネスシーンでも活用が進んでいるクラウドストレージサービス「Dropbox」。同社はデータ管理にこのサービスを活用している

    ビジネスシーンでも活用が進んでいるクラウドストレージサービス「Dropbox」。同社はデータ管理にこのサービスを活用している

「従来のFTPクライアントだと、AというPCからデータを入れて、それをBという別のPCでダウンロードしていました。フォルダに日付を入れて管理していましたが、それでも最新のファイルが共有できているのかはわかりませんでした」(山下氏)

Dropboxはクラウドにある最新のファイル状況をどのマシンからでもローカルファイルのような感覚で参照できるのが強みだ。ひとつをファイルを全員で更新していくイメージなので、見ているものが最新のファイルではなかったという心配がない。

クリーク・アンド・リバー社では、このDropbox内にフォルダを作成し、いくつかの階層構造でプロジェクトを管理している。

たとえば「A」という作品名のフォルダの中には「A001」や「A002」というシーンごとのフォルダがあり、さらにその中には「1.png」や「2.png」といったカットデータが入っている……といった具合である。カットデータは作画ソフトから書き出した連番データでやりとりしているとのことで、これは作画ソフトが違っていても管理しやすいというメリットがあるのだという。

「フォルダが従来のカット袋的な役割を果たしているといえます」(石川氏)

クリーク・アンド・リバー社では、こうしたDropbox内のファイル構造をさらにわかりやすく管理するため、Dropboxのフォルダの中身をスクリプトで読み込むウェブ管理表ツールを開発した。

制作の進行具合がひと目で分かるWeb管理表は、縦軸に原画マンの名前とカットナンバー、横軸に作業工程が並んでいる。この作業工程はDropbox内のファイルを読み込み、表示したものだ。

作業が終わると工程部分のチェックボックスをクリックしてチェックをつける。すると、これがDropboxに同期され、ファイルが次の階層のフォルダに自動的にコピーされるという仕組みだ。このとき、コピー先のファイル名も自動的に書き換わる。

  • Web管理表とDropboxによる進行管理のメリット

    Web管理表とDropboxによる進行管理のメリット

これにより、制作進行が作成していた従来の管理表が不要になったという。このやり方のメリットは、古いデータが前工程のフォルダに残ることだ。「データ管理で怖いのは古いデータで新しいデータを上書きしてしまうこと」(山下氏)なので、そこは徹底している。

また、うっかりクラウド上の元データを消さないよう、データは必ずローカルにコピーして作業する。万が一上書きしてしまった場合でも、管理者権限で作業ログの追跡と復活が可能だが、そうならないように「アップロード、ダウンロードのルール付とリネームルールは厳密に決める必要がある」(山下氏)

Dropboxではフォルダの共有範囲を設定できるため、これを活用してリスクを低減する。たとえば「A」という工程に関わるメンバーには、「A」というフォルダのみを編集する権限を付与し、他のフォルダには触れないようにするのだ。Web管理表を使えばファイルは次工程のフォルダへ自動的に生成されるため、このやり方と相性が良い。

  • 管理者がチームフォルダにそれぞれに関与するメンバーを招待する運用で、予期せぬデータ消去などのリスクを低減している

    管理者がチームフォルダにそれぞれに関与するメンバーを招待する運用で、予期せぬデータ消去などのリスクを低減している

Dropboxが制作進行の負担を軽減

Web管理表の一番のメリットは制作進行の負担軽減にあるという。

「弊社では制作進行は自分だけ。リアルタイムに全員が情報を共有できるようになったおかげで、普通の人間の生活ができている(笑)」(石川氏)

さらにカットの移動(共有)が制作進行に頼らずできるようになったことで、カットの滞留がなくなり他工程の長時間拘束もなくなった。また、交通事故など移動に伴うリスクや紛失リスクがなくなったのも大きなメリットだ。

現在アニメ業界は深刻な人手不足が続いており、「ショートフィルムを回すだけでも人を探すのが大変」(山下氏)な状況だという。そうしたなかではデジタル化による生産性の向上が不可欠。「業界のことを考えるなら一刻も早くデジタル化を推進するべき」(石川氏)なのだ。

デジタル化は従来の仕事の役割も変えていく可能性がある。

「もっと別の形の分業もありえるんじゃないかと思う。今までは個人が一つのカットを仕上げていたが、得意なカットがあるなら、その人にそのカットだけ全部描いてもらうとか。資質を生かして柔軟に分業するのもありだと思う」(山下氏)

Dropboxを活用することで大きな効率化に成功したクリーク・アンド・リバー社。制作進行のデジタル化が進むことで、人手不足、長時間労働などの問題が改善に向かうのかもしれない。