本連載で年初に2018年の展望について触れたが、Appleにとって、HomePodが持つ意味合いは、攻め切れていないスマートホームの突破口だ。しかし、他社のスマートスピーカーとは、やはり異なるアプローチを狙っていることが伺える。

スマートホームの問題点は、人々にとって「なくてはならない、不可欠なツール」ではないところにある。スマートフォンはもはや、なければ生活が不便になる存在だが、スマートホームデバイスはそうではない。

たしかに家中の電気を時間帯や外出、帰宅といったきっかけでコントロールしたり、部屋の温度を最適に保ったりする機能は、使い始めれば便利だ。しかし大きな投資をするなら無理に導入する必要はないし、アパートやマンション住まいの人にとって、導入する範囲が非常に限られることも問題点だ。

例えばサンフランシスコ周辺のアパートの場合、冷暖房設備、冷蔵庫、キッチンコンロなどは備え付けとなっており、多くの場合、セントラルヒーティングでお湯が使えることもある。洗濯機・乾燥機も備え付けか、共用ランドリーを利用することになる。当然これらのデバイスを勝手にスマート化することはできない。となると、現状変えていいのは電球ぐらいなのだ。これは持ち家に既に住んでいる多くの人々にとっても、白物家電や家の設備の更新タイミングはそうすぐには訪れない点からすれば、同じ問題を抱えていることになる。

電球の次にスマートホームで、自由に設置することができるデバイスは何か? 声で自宅にあるデバイスを操作して「便利だ」と感じさせるためには、どんなデバイスが対応すれば良いのか。

そうしたとき、ホームスピーカーに白羽の矢が立ったわけだ。そこでAppleはiOS 11の「HomeKit」にスピーカーを追加し、HomePodを投入して、Siriをスピーカーに対応させた。Appleのアプローチは、CESなどで盛り上がる音声アシスタントを搭載するスマートスピーカーを核として盛り上がりをみせる家電業界からすると、かなり消極的な姿勢だ。しかしAppleは長らくHomeKitに取り組んできて、なかなか手応えが得られない状況を、どう解決するのかを考えた結果、とみることができる。

果たして、楽観的なスマートスピーカーとスマート家電の流れが勝つのか、Appleの問題解決のアプローチが勝るのか。2018年は非常に面白い勝負が展開されていくことになるだろう。

ちなみに、繰り返しになるが、HomePodを含むSiriからは、HomeKit対応デバイスをコントロールすることができる。HomePodを投入することで、もしスマートスピーカーと家電の連携のトレンドが大きく盛り上がっても、Appleはこれに対応できることを意味しているのである。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura