月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」(GLXP)の期限は延長しない――XPRIZE財団が1月23日に発表したのは、レースの終了宣言であった。期限である3月末までにミッションを達成できるチームは無いため、10年の長きに渡ったこの前代未聞のチャレンジは、「勝者無し」という形で幕を下ろすことになる。

参考: XPRIZE財団のリリース(AN IMPORTANT UPDATE FROM GOOGLE LUNAR XPRIZE

これを受け、急遽24日に開催されたHAKUTOの記者会見には、袴田武史代表が登壇、現状について説明した。本レポートでは、延長無しが決まった現状を踏まえ、改めて今後の展望を考えてみたい。なおこれまでの経緯については、前回の記事を参照して欲しい。

参考: 「HAKUTOは月面に行けるのか? - Google Lunar XPRIZEの行方を考える」

  • HAKUTOの袴田代表

    24日の記者会見は、急遽決まったため、ispaceのオフィスで開催された。袴田代表の後ろにあるのは普段開発に使っているクリーンルームだ

立ちはだかった資金調達の壁

この会見を受けた報道では、日本のHAKUTOチームが優勝できなくて残念、というニュアンスの記事も多かった。これはある意味当然だろう。2000万ドルという巨額の優勝賞金を獲得できなくなったのだ。一般の感覚では、賞金を目指して頑張ってきたと思うだろうし、そうであれば、残念という感想になってしまうだろう。

筆者はもともと、延期は厳しいだろうと見ていたので、この発表自体には驚かない。ただ意外に思ったのは、新しいスポンサーを探したり、賞金無しにするなどして、レースを続行する可能性についてわざわざ言及していたことだ。

ここから推測できるのは、レースの終了を決めたのはスポンサーであるGoogleであって、XPRIZE財団としては続行の意志があるということだ。これは朗報だろう。袴田代表が渡米し、延長について交渉した際、終了するのであれば新しいレースを企画して欲しいと依頼したそうで、その要望を汲んだ結果と言えるかもしれない。

賞金無しで続けることに「意味があるのか?」と思うかもしれないが、もともとGLXPは賞金だけをアテにしていては勝てないレースである。賞金の役目はあくまで呼び水。ミッションの資金としてはまったく足りないので、出場者はまず、ビジネスモデルを構築して、資金を集めなければならない。

GLXPは、技術開発レースであると同時に、資金調達レースでもあるのだ。24日の会見では、袴田代表も「今回のチャレンジで一番難しいのは資金調達。そこをしっかりやれたチームがファイナリストとして残った」と述べている。

月面にローバーを送り、走らせることは決して簡単なことではないが、アポロの時代からはもう半世紀になる。エレクトロニクスの進歩は著しく、技術的には、やりやすい環境が整っている。難しいのはむしろ資金的な問題で、だからこそ、この状況を打破するため、XPRIZE財団はGLXPを2007年に立ち上げた。

10年が経過しても打ち上げられていない現実については、「各チームの資金調達が現実化してくるタイミングが少し遅すぎた」と袴田代表は分析。「資金調達して本格的に開発できるようになったのはこの3~4年。もう少し資金調達が早くできて、技術開発の時間をしっかり取れれば、技術的には十分達成できた難易度だった」と悔しさも滲ませる。

しかし、GLXPの真の目的は、民間による月面開発を加速すること。以前の記事でも触れたように、この目的自体は、すでに達成されていると言える。XPRIZE財団も前述のリリースの中で、出場チームが総額で3億ドル以上の資金を獲得したことや、複数の宇宙ベンチャーが誕生したことなどを、成果として紹介している。

そういう意味では、レース自体が無くなったとしても、構わずミッションを進めればいい。実際、他チームもプロジェクトを続行する意思を見せている。

しかし個人的には、やはりレースの「決着」はつけて欲しいとも思う。ここまでレースが盛り上がったのに、主催者が帰ってしまい、ゴールに誰もいないのは寂しい。いや、実際に月面のゴールは無人なのだが、審判が見届け、勝者を宣言する方が、偉大なマイルストーンの場としては相応しいのではないだろうか。

  • インドで打ち上げを待つHAKUTOの月面探査ローバー「SORATO」

    インドで打ち上げを待つHAKUTOの月面探査ローバー「SORATO」