富士通コンポーネントが、マレーシア・ジョホールに置く製造拠点のFUJITSU COMPONENT (MALAYSIA)SDN.BHD(略称・FCM)は、キーボードおよびリレーの生産を行っている。
富士通クライアントコンピューティングが戦略的製品のひとつに位置づける13.3型ノートPC「LIFEBOOK UH75/B3」のキーボードもここで生産されており、同クラスで世界最軽量を実現しながら、打ちやすさを犠牲にしない入力環境を達成。その実現において、FCMの存在は欠かせないといえる。実際に現地を訪れ、キーボードの生産の様子を取材した。その品質へのこだわりは、想像以上のものだったといっていい。
12月(※取材は2017年12月に実施)にも関わらず、気温34度のマレーシア・ジョホール。冬の寒さになれてきた身体には、夏の暑さが、なんだか懐かしい感じだ。
シンガポールのチャンギ国際空港から、マレーシアとの国境を車で越えて約3時間。シンガポールの都会的雰囲気から一変して、高いビルはまったく見あたらない場所に、FUJITSU COMPONENT (MALAYSIA)SDN.BHD(以下、FCM)はある。最近になって、車で20分ほど離れた場所に、スターバックスがオープンしたことが街の話題だ。
マレーシアに立つ富士通の製造拠点
FCMは、1980年10月に創業。そこから建屋の建設が始まり、1982年11月にはリレーコイルの生産拠点として操業を開始した。
FCMの柳澤正伸社長(マネージングディレクター)は、「富士通のシンガポール生産拠点を拡張する狙いから、マレーシアに新たに工場を設置した。地元企業との合弁が前提となっていたマレーシアにおいて、富士通グループは100%出資する形で生産拠点を設置したいとの思惑があり、それが可能な特別エリアであったこの地に生産拠点を設置した」と、ジョホールへの生産拠点開設の経緯を説明する。
敷地面積は東京ドーム2個分
敷地面積は、8万127平方メートルで、東京ドーム2個分にあたり、AからF棟、さらにはAA棟を含めて7棟に分かれ、建屋面積は2万7278平方メートルとなっている。
1986年からは、現在の主力となっているリレーの組立生産を開始。1987年8月からはキーボードの生産も開始した。1989年2月からはモールド成形およびスタンピングを開始して、キーボードやリレー製品に使用する部品の内製比率を向上。1989年5月には、コネクターの製造およびコネクター端子部のメッキ加工をスタートし、1996年にはマウスの生産も開始した。
だが、その後、コネクターの生産などを国内へと移管。事業規模を縮小しており、2000年のピーク時には約2900人だった従業員数は約1100人へと減少。C棟およびE棟、AA棟は使用していない。現在では、リレーおよびキーボードの生産を行っており、キーボードの生産では、今年30周年を迎えたところだ。
「FCMの企業ミッションは、お客様のために特徴ある製品の製造組立を行うこと。質の高い仕事を通じて、常に高品質の製品を作り続けることに取り組んでいる」(柳澤社長)とする。
2016年には、QCサークルの世界大会に、マレーシア代表として出場。そこで、金賞を受賞するなど、FCMの生産品質は世界的にも評価された。「リレーのワイヤーを巻く工程においては、チェックシートの活用やプロセスの見直しなど、5つのツールを活用し、2.75PPM(パーツ・パー・ミリオン)であった不良率を、ゼロにした」との驚くべき成果をあげている。
除塵を徹底、キーボード製造ラインも防護服
ISO 9001、ISO 14001、IATF16949を取得しているのも、品質への取り組み成果の結果の表れだ。そして、赤道に近いマレーシアの1年中暑い気候は、品質維持にも貢献しているという。「四季がないので、暑さや寒さによって品質が変化するといった影響を受けにくい。四季がない暑い気候は、かえって品質の安定につながる」のだそうだ。
FCMの徹底した品質に対するこだわりは、随所にみられる。たとえば、リレーおよびキーボードの製造ラインでは、いずれも作業者が防塵服とマスクを着用。エアーシャワーで身体を除塵し、靴底洗浄機で靴底を洗ってから組立工程に入る。とくにリレーの生産ラインでは、見学者を含めて、手袋の着用までも義務づけている。
これまでにも、防塵服を着用して、組立工程などの取材をしたことはあったが、その多くが半導体製造などの精密部材の生産ラインか、食品製造ラインだ。そして、原子力発電所などの危険性の高い場所に限られる。
正直なところ、まさかキーボードの組立ラインに、防塵服を着て入ることになるとは思ってもみなかった。
FCMの石田隆博ディレクターは、「生産上の不具合を検証した結果、小さな異物が入り込むことが原因だったり、皮膚の油脂が原因だったりといったことがわかった。そうした検証の積み重ねの結果、生産ラインでは、防塵服の着用を義務づけることになった」と説明する。