東北大学は、新規に開発した「電解水」を用いた透析システムが、慢性透析患者の生存期間を改善することを明らかにしたと発表した。同透析治療法により、透析患者の重篤な合併症が抑制され、透析患者の積極的な社会復帰、医療費の抑制に貢献することが期待されるという。

  • 「電解水」血液透析システムの概要

    水電気分解装置で陰極側に水素分子を含む水が生成される。この水を逆浸透圧装置に導入して透析水を作る。本水で作製した血液透析液には溶存水素が30から100ppb含まれる。この溶存水素は人工腎臓を介してシャント血に移動し、呼気中から排泄される。(出所:東北大学ニュースリリース)

同研究は、東北大学大学院医学系研究科附属創成応用医学研究センター・東北大学病院慢性腎臓病透析治療共同研究部門の中山昌明特任教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、1月10日に英国科学誌「Scientific Report」電子版に掲載された。

一般に、透析患者の生存期間は極めて悪く(年間死亡率は約10%)、心血管合併症が主な死因となっている。この合併症の原因には透析中に生じる生体内の酸化ストレスと炎症が関わっていると考えられているが、現状、これらの要因を安全に抑える手段はなかった。そんな中、東北大学と日本トリムは、水の電気分解によって生成される「電解水」が生体内で酸化ストレスを抑えることに注目し、電解水の透析治療への応用を目指し2006年より共同研究を行ってきた。

同研究では、慢性透析患者の生存期間に対する電解水透析の影響を明らかにすることを目的とし、5年間の多施設共同臨床研究の成果を報告した。国内7施設の慢性血液透析患者を対象に、それぞれの治療法における死亡および心血管合併症(うっ血性心不全、虚血性心疾患、脳卒中、虚血による下肢切断)といったイベントの発生を測定結果とし、5年間の臨床経過が観察された(電解水透析群161例、通常透析群148例)。透析自体の臨床的効果・安全性に両群間に違いは見られなかったが、電解水透析群では透析後の高血圧の改善、必要な1日当たりの降圧薬の投与量の減量が観察されたという。

平均観察期間3.28年の間に、91件のイベントの発生が確認され(電解水透析群41件、通常透析群50件)、この結果に対し、電解水血液透析は結果に影響する独立した要因であることが統計的手法によって確認された。電解水透析群では通常透析群に比較してイベント発生が41%低いという結果であり、電解水血液透析は、慢性透析患者の心血管病を抑制し、患者予後を改善する可能性が示された。このことより、従来の血液透析療法が抱える高い死亡率や心血管合併症の発生に対して、電解水透析が新たな解決手段となる可能性が示されたということだ。