ボトルネックになっていたバックオフィス部分をクラウド化

メイン業務であるシステム開発がオンライン化しているにもかかわらず、同社にはまだアナログな作業が残っていた。それは、バックオフィスの分野だ。経費精算の申請などはExcelベースのワークフローを実行し、請求書は紙を出力して郵送するという作業を行わなければならなかった。

「総務や経理などの部分については、旧態依然といいますか、クラシックなやり方を続けていました。せっかくメイン業務がリモート化しても、バックオフィス業務をリモートで行えなければ意味がありません」

メイン業務をオフィス外で取り組めるようになっても、経費申請をするために出社していては、何のために自由な働き方ができるようになったのかわからない。そこで、同社ではバックオフィスのリモート化や経理のリモート化を実現すべく、ビジネス向けクラウドサービス『MFクラウドシリーズ』の「MFクラウド会計」「MFクラウド請求書」「MFクラウド経費」を導入する。

シックス・アパート 事業開発 シニアコンサルタントの作村裕史氏

「リモートワークの実現には、リモートワークらしくないルールや業務を1つずつ削っていくことが必要です。パソコンを起動し、経費精算書をExcelで開いて、必要項目を手入力していく。そして、メールに添付して上司に申請――。という作業はリモートワークらしくありませんよね。MFクラウド経費の場合、交通費の申請はスケジュールから訪問先などのデータを取り込み、スマホで最小限の情報を書き添えてタップするだけなので、ちょっとした空き時間で作業できてリモートワークとも相性がいいと思いました。また、物品購入などの立替経費精算も、領収書をスマホで撮影すれば済むので作業に対するハードルは低いでしょう。以前、会計ソフトは海外製品を使っていたので、日本の会計制度に合わせてPL/BSの決済報告書を作り直していた手間が省けたこともよかったですね」

これまでExcelで行っていた経費申請をスマホで完結できるようになり、リモートワークはまた1歩前進。メイン業務とバックオフィス業務がともにリモート化したことで、ようやく出社しなくても業務を進めることができるようになった。

  • スマホでレシートを撮影する様子

    スマホでレシートを撮影する様子

しかし、クラウドサービスも万能ではない。

「これは一般論ですが、システムの移行前後は使い方を覚えるための学習コストなどが発生します。操作に体が慣れるまで学習期間が必要ですが、導入後1年ほどではまだ業務が楽になったとは言いきれないですね。また、当社では総務や経理はパソコンで仕事をしており、リモートワークをする社員はスマホをメインで使うことが多く、画面の見え方が異なります。パソコンとスマホではメールアプリで表示できる件名の長さが違うなど体験のギャップが生じているので、そのあたりでストレスになっているところもありますね。ただ、最近では差し戻しの際に経理担当者から『税区分が不明だったので8%に修正お願いします』というような依頼が、MFクラウド経費のチャットで届くようになりました。履歴が残るので次回申請時も思い出しやすくて便利ですね。試行錯誤を繰り返して、ようやく使い方が固まってきた気がします」

MFクラウド経費が導入されたことで経費申請側の負担は軽くなった。しかし、導入するだけですべての課題が解決できるわけではない。また、経費申請は領収書をスマホで撮影すればリモートでも可能だが、電子帳簿保存法に対応していない同社の場合、領収書の原本保管が必要なため、月初に出社する際に領収書の原本を回収しているという。

試行錯誤を繰り返し、少しでも働きやすい未来へ

さまざまな課題を抱えながらも自律的な働き方を模索するシックス・アパート。経理分野においてもユニークな試みを実施していた。

「立替経費をアマゾンのギフト券で支払うという取り組みを行っています。振込には手数料が発生しますが、1カ月数百円の経費に数百円の振込手数料を取られるのはもったいないですよね。もちろん、希望者には現金で支払いを行っているので、MFクラウド経費上で名前の横に現金希望の(M)やアマゾンギフト券希望の(A)などの印をつけて区別できるようにしています」

  • MFクラウド経費の画面。名前の横に(M)とついている

    MFクラウド経費の画面。名前の横に(M)とついている

さらに、同社では福利厚生の一部として「SAWS手当」と呼ばれる予算を毎月1万5000円ずつ一律で支給しているという。

「SAWS手当は、自分の職場環境の維持と改善に係る費用として支給するもので、自宅で働く場合の光熱費やプロバイダー料など、さまざまな用途に使える予算です。サラリーマンでも自分の仕事場は自分で投資して改善していくというスキルを身につけることで、結果的にリモートワークによる業務効率改善につながっていくと思っています。また、事前に支給することで、管理者と社員の間で発生する承認フローをなくすこともできました」

SAWS手当にも、自分で考えて動いてほしいというメッセージが込められている。自宅で書類の印刷を完結させたい人はSAWS手当を積み立ててプリンターを購入し、カフェで仕事を進める人はコーヒー代に充当する。ちょっとした周辺機器を購入し、働きやすい環境を整えることも可能だ。

「今後は、MFクラウド経費上で、送金手数料の低い仮想通貨などで立替経費を支払えるようになればうれしいですね。あと、個人的にはスマートスピーカーなどと連携することで、手を使わずに音声だけでスケジュールから外出先を読み込んで、経費申請を行ってくれるような未来がやってきたらいいなと思います。我々も今の形がベストだとは考えていません。これからも新しいテクノロジーなどを取り入れつつ試行錯誤しながら、進化していきたいと思います」

1つのサービスを導入するだけで劇的に働き方が変わるということはない。会社でやる必要のないことを1つずつクリアしていくことが、結果的に幅広い働き方ができるリモートワークへの近道となるのだ。全社員が自律的に働き方を改善させていくSAWSから学ぶことは多い。