京都大学(京大)は炭素原子と水素原子6つずつが互いに結合し、正六角形を成した「ベンゼン環」をリング状につなげた「炭素ナノリング」の大量合成に成功したと発表した。また同時に、この「炭素ナノリング」の薄膜が、スムーズに電子を流す性質を持つことを発見したという。

同成果は、京大化学研究所の山子茂 教授、梶弘典 教授らの研究グループによるもの。詳細は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」(オンライン速報版)に掲載された。

  • 炭素ナノリングのイメージ (出所:京都大学Webサイト)

    炭素ナノリングの外観イメージ (出所:京都大学Webサイト)

ベンゼン環をリング状につなげたシクロパラフェニレン(CPP)を代表とする「炭素ナノリング」は、カーボンナノチューブやフラーレンの最小構成単位であり、次世代の有機電子材料として興味が集まっている。ここ数年の活発な研究により、炭素ナノリングの化学合成やその物性解明が進んだこともあり、材料科学への展開には大きな期待が寄せられている。しかしこれまで、大量合成が困難であることから、有機デバイス材料として応用したという報告はなかった。

研究グループは今回、独自の合成手法を用いることで、市販の試薬から比較的簡便に10個のベンゼン環からなるCPPとその誘導体(CPP上の一部の水素原子を官能基で置換したもの)をグラム単位で合成することに成功した。さらに、得られた化合物は有機溶媒によく溶けるため、これまで困難であった「炭素ナノリング」の非晶薄膜およびデバイス作製が可能となった。また、薄膜の性質を測定したところ、有機薄膜太陽電池の電子を受け取る化合物として用いられているフラーレン誘導体と同じくらい電子を流すことが明らかになった。

炭素ナノリングはフラーレン類に比べて自由な分子設計が可能という利点もあることから、研究グループは、「今回の結果は、有機ナノエレクトロニクス分野をはじめとする材料開発に大きな波及効果を与える」とコメントしている。