富士通研究所は、高熱伝導性と耐熱性を両立する垂直配向カーボンナノチューブから構成された、高い放熱性能を持つ高熱伝導カーボンナノチューブシートの開発に成功したことを発表した。

  • カーボンナノチューブを放熱材料として適用した場合のイメージ

    カーボンナノチューブを放熱材料として適用した場合のイメージ

電気自動車の発展に伴い、高電圧下で電力を制御する車載パワーモジュールには低消費電力・高耐圧が求められており、モジュールの小型化に伴う高温動作への信頼性確保も同時に必要とされている。これに対し、低消費電力・高耐圧の特徴をもつシリコンカーバイドがシリコンに置き換わり利用されつつあるが、200℃以上の高温領域でも安定動作させるためSiC素子の熱を効率良く排熱する必要がある。

カーボンナノチューブは炭素原子から形成された直径数ナノメートル程度の円筒状のナノテク材料のひとつで、銅のおよそ10倍の熱伝導性や5000倍の電流密度耐性といった優れた特性を持ち、車載向けをはじめとする次世代の放熱材料の候補として期待されている。

高い熱伝導性を持つカーボンナノチューブをシート化することで、放熱材料としての活用が期待されるが、本来の特性を十分に活用するためにはまだ課題があり、従来材料との複合など簡易的な応用への適用にとどまっていた。

このたび富士通研究所は、2つの技術を開発することで、界面抵抗を含めた場合でも80ワット毎メートル毎ケルビン(以下、W/mK)以上と従来の放熱材料に比べ極めて高い熱伝導率を示す高熱伝導カーボンナノチューブシートを実現した。

この技術を適用したカーボンナノチューブ放熱シートは、既存の高熱伝導材料として知られるインジウムを原料とする放熱材料と界面抵抗も含めた実測値で比較した結果、およそ3倍の熱伝導率を確認した。また、インジウムの融点は160℃程度だが、この放熱シートの耐熱温度が700℃以上と高い耐熱性も確認した。これにより、次世代電気自動車やハイブリッド自動車の車載パワーモジュールを効率良く冷却することが可能となる。

  • 200mmシリコン基板全面に合成した多層カーボンナノチューブ(左)とカーボンナノチューブシート(右)

    200mmシリコン基板全面に合成した多層カーボンナノチューブ(左)とカーボンナノチューブシート(右)

今後、富士通研究所では、カーボンナノチューブ放熱シートの熱伝導性をさらに高め、実用化に向けた開発を進め2020年度以降での車載向け放熱シートの製品化を目指すとともに、次世代HPCや次世代通信機器への適用など、新たな分野への展開も検討するということだ。