千葉大学は、画像中の静止した部分が周囲の運動につられて動いて見える仕組みについて、動きに関する周辺との共通性の有無によって、動いて見える向きが決められることを見出したと発表した。

同研究は、千葉大学人文科学研究院の一川誠教授と、愛知淑徳大学創造表現学部の政倉祐子講師の共同研究によるもので、同研究成果は、日本時間7月18日にSAGE社によって出版されている国際誌「Perception, Vol.46」で公開された。

同心円部分が回転すると内側の黒い扇形が動いて見える。中央の四角を見ながら観察距離を変えると、錯視による回転と運動捕捉が見える。(出所:千葉大学プレスリリース)

実際運動(左)と錯視運動(右)によって生じた運動捕捉(黒)と誘導運動(白)の頻度(出所:千葉大学プレスリリース)

静止した刺激(画像)は、周辺の運動刺激によって動いて見えることがあり、多くの場合は、周辺とは逆方向に動いて見える誘導運動が生じる。一方で、運動刺激と同じ方向に動いて見える運動捕捉と呼ばれる現象が生じることも古くから知られていた。これらの現象は、これまで別々に検討されてきており、それぞれがどのような場合に起こるのかはよく分かっていなかった。

過去の研究では、実際に動く画像と静止した画像を組み合わせることで、静止した刺激が周囲につられて動いて見える誘導運動の現象が調べられてきた。こうした実際の動きを用いた手続きでは、あまり運動捕捉が起こらない。同研究では、実際の回転運動を提示する条件だけではなく、実際には回転していないけれども、図の拡大縮小に伴う錯視によって回転運動して見える刺激を提示する条件も用意し、これらの条件で、運動捕捉と誘導運動のそれぞれがどのように生じるのか調べた。

実験では、同心円状の刺激で実際の回転運動か錯視による回転運動をつくり、実験参加者(大学生10名)はその内側の黒い扇形の静止刺激がどのように動いて見えるかを答えた。その結果、実際の回転運動を示した条件では高い頻度で誘導運動が生じ、錯視による回転運動を示した条件では極めて高い頻度で運動捕捉が生じた。また、追加実験では、実際に刺激が回転運動した場合でも、刺激全体が拡大縮小したり、左右に並行移動した場合には、高い頻度で運動捕捉が生じることを見出したという。

この特性は、実際の画像の運動だけではなく、印刷物の観察で生じる運動錯視にも共通して認められるため、動画像観察だけではなく、ポスターや書籍などの印刷物を使った動画像表現でも役立てることができると考えられるということだ。