――ルヰの話に戻りますが、彼のプリズムショー中に披露されるポールダンスは圧巻でした。

乙部氏:
あの場面の資料は持ってきていますよ、モーションキャプチャはこうやって撮影しました。

ルヰのダンスのモーションキャプチャの様子

――やはりポールダンスはモーションキャプチャで動きを取っていたんですね。CRAZY GONNA CRAZYのキャプチャ装置とはまた違いますね。

乙部氏:
ポールダンスの撮影は、光学系の装置を使っています。ただ、(モーションキャプチャの撮影をしている段階では)ポールダンスがどんな内容に使われるのかは全然分かっていなかったんですが(笑)

ポールダンスシーンのCGモデル

作中のポールダンスのシーン

――使っている3DCGソフトは、タツノコプロのメインツールである3Ds Max(以下、Max)ですか?

乙部氏:
はい、そうです。Maxを使っています。今回新たに取り組んだことがあって、ルヰのショーの衣装のために、服飾用の「Marvelous Designer(マーベラスデザイナー)」という3Dソフトを使いました。

――ルヰの衣装は布の繊細な揺れが印象的でしたが、特別なソフトを使っていたんですね。

乙部氏:
業界ではわりと有名なソフトです。画面上で型紙から服を作ることができて、シミュレーション機能もあるのですが、それがものすごく良いんですね。それを使ってMaxの方に取り込むということをやっていました。当初は今までと同じボーンのアニメーションで制作しようとしていたのですが、やっぱり大変で、別の方法を採用したという流れです。

※ボーン:3DCGキャラクターを動かすために設定する「骨」。

ルヰの設定画

ルヰの3DCGモデル(左からワイヤフレーム、シェーディングモデル、レンダリング後の状態)。

実はこのために買ったソフトでは無く、別件のために購入してあったのですが、なかなかテストができていなかったんです。そういう意味でもちょうどよかったので、これでうまくいったらいいなというくらいの気持ちでした。

セルシェード(セルアニメ調に見えるCGの陰影の付け方)にシミュレーションで作った服のデータが合うのかということも分からなかったので、実験的にやってみたんです。結果的には、あのやり方でやらなければ、正直に言ってヤバかったですね。

――衣装がものすごく繊細に揺れ動くので、どれだけ工数がかかったのだろうかと考えていました。このツールを活用したことで、工数は短縮されましたか?

乙部氏:
かなり工数はかかりましたが、Max単体で進めるよりは早く終わったと思います。別のソフトを噛ませるので、どうしても(単一ソフトでの制作より)工数は増えてしまうんですが、案外うまくハマって、そこまで無駄な手数を経ずにMaxへ持ってこられました。おかげで早い段階で、完パケ状態まで持ってこられていたんです。あとは完成度を高める微調整をしていきました。

――CGでの再現が難しい衣装だと感じましたが、あれだけひらひらした衣装になった理由はなにかいきさつが?

乙部氏:
それはデザインした方に聞くしかないですね(笑) それまでは、ルヰの衣装は前作のキンプリの時に着ていた羽根のついたものに似た感じで、まさかあんなにひらひらするとは思っていませんでしたね。

確かウエディングドレスのようなイメージだったと思います。ネタバレとしては、プリズムキングカップでのショーは、プリズムの使者としての使命ではなく、自分の素の状態でやっていることなので、魂としては女性で、その女性らしさというか中性的なところを表しているんだと思います。

ルヰの3DCGモデルのアップ(左からワイヤフレーム、シェーディングモデル、レンダリング後の状態)。シェーディングモデルのあごまわりの形状は、2Dアニメーション的なキャラ表現を、どの角度からでも成立させる目的で作られている

初めて使うソフトだったので、それに慣れるのも含めてだいたい2カ月は作業しました。モーションキャプチャの工程も含めるともう少し長いです。マーベラスデザイナーを使い始めたのは9月くらいですね。

――では、モーションキャプチャの撮影はいつ頃行ったのでしょうか?

乙部氏:
キャプチャ自体は去年(2016年)の7月に撮影していました。今作制作のGOサインが出たのは9月8日なので、最終決定する前に、すでにポールダンスのキャプチャは撮っていたんです。絶対に制作するだろうという予想のもとで動かしていました。また、そのころは仕事的にやや余裕があったので、できる時にやっておこうと考えたのもあります。

――新しい挑戦、工数が読めない部分は前倒しで行ったのですね。

乙部氏:
そうです。GOサイン後ですとどうしても年末や正月にかぶってしまうので、そこで何かやろうとすると、そんなに新しいことはできないですし。7月がタイミング的には良かったです。ただ、こんなに早く撮らなくてもよかったかもしれませんね(笑)

こんなに前倒しで進行できたのは、曲の完成が早かったからなんですね。ルヰの曲はシナリオ決定稿の前にはあったんじゃないでしょうか。一番早く届いた記憶があります。ヒロの楽曲みたいな既存曲のアレンジではない完全な新曲に関しては、もう昨年の夏には曲があって、あとはキャプチャを撮って、コンテがあれば本編を作れるような状態でした。

――そうなると、ラストのオバレのライブも、同時期にモーションキャプチャを撮られたりしていたのでしょうか?

乙部氏:
さっきのルヰのダンスと同じ日に撮影しました。7月にはキャプチャがすべて終わっていました。当時は仮歌でいただいていて、キャスト3名の歌入れが終わったのは公開に近いころでした。

また、掲載時にはお見せできないですが、制作途中の時点で、プリズムキングカップで演技しているルヰはパンツをはいていなかったんですね。

――そうなんですね! ファンの方の感想には、「ルヰはパンツをはいている」と指摘する声もありました。

乙部氏:
扱いとしては、あれはレオタードみたいですよ。フィギュアスケートのショーだとインナーを着るじゃないですか。見る人の心が不純なものを見てるように思ってしまうとしたら、そういう風に見えるかもしれないです。

――パンツに見えるのは心の煌めきが足りない、ということですか。

乙部氏:
そうそう…と言いつつも、僕らもちょっと心配になって、いろんな人に「これOKですか?」と聞いて回っていたんですよ。依田プロデューサーからは「見えてもいい衣装だから大丈夫」とコメントをもらいました。

最終的には、社内の3D担当の女性スタッフに多数決を採りました。何人かは賛成、若干難色を示した人も少数いた、みたいな感触でしたね。結果、若干フィルターで(股間を)暗くしたり、ポールダンスをしている最中は逆にやや明るくしたりして、ジャストで見られないようにはしています。ただ、よくよく見ると、見えます。映画館で見ると高画質なので、けっこう見えるかもしれないですけど。

――タイトルコールのキャラクターの全裸の立ち絵では、下半身に影が落ちているような処理もされていましたが、あちらの方向ではなくて、あくまでもインナーだからというようなところでしょうか。

乙部氏:
実際、あんな感じで影を入れた状態をテストしたこともあったんですけど、そこまでやると逆にいやらしくて。そんなに隠したいものなの?みたいな印象を受けてしまうと思われたので、さりげなく明暗を調整して、目立たせない程度にしました。