弘前大学は、 木材の主成分であるリグニンだけを用いて、ナイロンやペットボトルなどの原料になるムコン酸を生産する微生物の開発に成功したと発表した。

同研究は、弘前大学農学生命科学部の園木和典准教授と長岡技術科学大学大学院工学研究科の政井英司教授らの研究グループによるもので、同研究成果の詳細は、6月24日に開催される日本農芸化学会東北支部シンポジウム、9月11日~14日に開催される第69回日本生物工学会大会にて発表される。

現在、バイオマス利用における主要な原料は糖質だが、食料としても利用できることや、新材料として期待されるセルロースナノファイバーなどへの利用拡大などを考えると、将来的には糖質の需要競合および原料の高騰が予想される。そのような背景を鑑み、同研究では糖質をまったく使わず、木本や草本などの非可食バイオマスに含まれるリグニン成分のみを利用してポリマー原料を生産する技術の開発を目指した。

組換えPseudomonas属微生物株の代謝経路イメージ (赤矢印は組換え微生物株の特徴)(出所:プレスリリース)

同研究グループは、G-リグニン、H-リグニン由来の多様な芳香族化合物を唯一の炭素源として増殖できるPseudomonas putida KT2440株を宿主として、代謝関連酵素をコードしている複数の遺伝子について遺伝子組換えを行った。この組換えPseudomonas属微生物株は、G-リグニン及びH-リグニン由来の芳香族化合物をムコン酸生産へと導くだけでなく、微生物株自身が増殖するための代謝経路も保持できることがわかった。スギやマツ、ヒノキなどの針葉樹には主にG-リグニンが含まれていることが知られており、これまでの研究で、リグニン由来の芳香族化合物モデルであるバニリン酸(G-リグニン由来)と4-ヒドロキシ安息香酸(H-リグニン由来)の混合物を利用して、この組換え微生物株が増殖し、収率約18wt%でムコン酸を生産することを確かめているという。また、スギ木粉から調製したリグニン分解物を利用して増殖し、ムコン酸を生産することも確認しているということだ。

組換えSphingobium属微生物株の代謝経路イメージ (赤矢印は組換え微生物株の特徴)(出所:プレスリリース)

また、同研究グループは、G-リグニン、H-リグニンに加えて、S-リグニン由来の多様な芳香族化合物を唯一の炭素源として増殖するSphingobium sp. SYK-6株を宿主として、代謝に関連する酵素をコードしている複数の遺伝子について遺伝子組換えを行った。この組換えSphingobium属微生物株は、S-リグニン由来の芳香族化合物を自らの増殖のための炭素源・エネルギー源として利用できる代謝経路と、G-リグニンとH-リグニン由来の芳香族化合物をムコン酸へと導く経路を保持していることに大きな特徴がある。ユーカリやシラカバなどの広葉樹、稲わらやバガスなどの草本は、G-リグニンやH-リグニンに加えて、S-リグニンを多く含むことが知られており、これまでの研究で、リグニン由来の芳香族化合物モデルであるシリンガ酸(S-リグニン由来)とバニリン酸(G-リグニン由来)の混合物やシリンガ酸と4-ヒドロキシ安息香酸(H-リグニン由来)の混合物を利用してこの組換え微生物株が増殖し、収率約35wt%でムコン酸を生産することを確かめている。また、シラカバ木粉から調製したリグニン分解物を利用して増殖し、ムコン酸を生産することも確認している。

同研究では、リグニンのみを原料として、ナイロンやペットボトルなどに使われるポリマー合成の基幹化合物であるムコン酸を、微生物を用いて生産し、かつ微生物の増殖も可能とする技術を確立した。この技術に関しては、4月25日に特許出願が行われている。今後は、ムコン酸生産の収量および収率を高めていくために、前処理方法の検討や、微生物株のさらなる改良を行う予定だということだ。