ベルギーの独立系半導体ナノテク研究機関であるimecは、米国フロリダ大学と共同で、患者が義手をもっと直感的に制御できるようにすることを目指した人体埋め込み用極薄シリコンチップの試作に成功したと発表した。

同成果は、将来のハプティック義手実現を目指した閉ループシステムの構築に向けたDARPA(米国国防省国防高等研究計画局)のHAPTIX(Hand Proprioception and Touch Interfaces )プログラムが資金援助しているフロリダ大学のIMPRESS(Implantable Multimodal Peripheral Recording and Stimulation System)プロジェクトの一環として開発されたものだという。

現在、ロボット義肢(義手)技術としては、患者に人工の腕と手を接続することで、物体をつかみ、操作することができるまでに到達している。これは人の筋肉または末梢神経からの信号を読み出して人工器官のマイクロモーターを制御し、それにより意図を伝達することによって実現されている。しかし、これらの義肢のほとんどが触れているものの感覚を得ることができず、また精密な運動の制御も困難という課題がある。

今回、imecらが開発した技術は、腕に埋め込まれた電極インタフェースを使用して末梢神経に正確な電気パターンを伝送することで、義手からの触覚を装着者に提供できるようにしたもので、これを実現するためにimecでは、生体適合性と密閉性のある柔軟なパッケージを備えた35μmという薄型のシリコン製半導体チップを試作したとしている。チップ表面には、64個の電極(将来128個まで増やすことが可能)があり、チップに取り付けられた針を通して、パッケージを神経束の中に挿入して埋め込むことで利用する。imecでは、同チップの電極数の多さがポイントとしており、既存の少ない電極で神経束を包む技術と比べて、読み取りおよび刺激の精度をはるかに高めることが可能になったと説明している。

人体埋め込み用シリコンチップとその先端に取り付けられた神経側へ挿入するための針 (提供:imec)

なお、imecのプログラムマネージャーであるMaaike Op de Beeck氏は、「優れた拡散バリア特性を備えたナノレイヤと優れた機械的挙動を示す薄いポリマー層を積層することで、新たな生体適合性のチップカプセル化技術を開発することに成功した。これにより、最終的に侵襲を最小限に抑えることが可能となり、埋め込みに適した、人間の髪の毛に匹敵する極薄のフレキシブル電子デバイスを実現できた」とコメントしている。

imecらが今回開発したハプティック義手向け人体埋め込み用極薄シリコンチップのイメージ動画