九州大学大学院芸術工学研究院の村山依子日本学術振興会特別研究員、伊藤浩史助教、お茶の水女子大学基幹研究院の郡宏准教授、早稲田大学理工学術院の岩崎秀雄教授らの研究グループは、低温で体内時計が止まってしまう原理を明らかにしたことを発表した。この研究成果は5月15日、米国科学アカデミーの機関誌「Proceedings of National Academy of Sciences」に掲載された。

リズム消失の二つのタイプ(出所:ニュースリリース※PDF)

人間の寝起きのリズムは体内時計によって生み出されており、それは低温下で停止することが昆虫や植物で報告されてきた。また、数学や物理学の分野においては、リズムの生まれ方や止まり方にどのような特徴があるのかについて考察され、いくつかの典型的なタイプに分類できることが明らかになっている。その後、バクテリアの体内時計を試験管の中に再現する実験手法が開発され、体内時計を高精度で調べることが可能になった。

研究グループはこの実験手法を用い、体内時計が低温時にどのように停止するのかを詳しく計測、解析した。その結果、室温では強いリズムが存在するが、温度を下げていくとリズムの振れ幅が小さくなり、19℃以下ではリズムが止まってしまうことが明らかになったという。

このようなリズムの停止の特徴は、数学上の分類であるホップ分岐と呼ばれるものと同じであり、これはブランコのリズムに例えることができるという。室温では人がこいでいるブランコのように揺れ続けることができるが、温度を下げていくとブランコをこぐ力が弱くなり、19℃以下ではこぐのをやめた状況に対応するという。

研究グループは、ブランコは乗り手がこぐのをやめても、上手いタイミングで繰り返し押せば小さな力でも大きく揺らすことができることから、体内時計とブランコの類似性に着目。実際に、低い温度で止まってしまった体内時計にほぼ24時間のリズムで2℃の温度変化を与えたところ、低温では決して現れないような強いリズムが観察されたという。この現象は、物理学の「共鳴現象」と同じで、体内時計でも共鳴が起こることが確認されたという。この共鳴によって、体内時計の振れ幅を大きくするという試みはコンピュータによるシミュレーションでも再現できたという。このことは、バクテリアのみならず、ヒトを含む他の生き物に共鳴現象を応用できる可能性を示唆している。

研究グループは、将来、共鳴現象を使って、人間の体内時計をメリハリのあるものへと変えることができるかもしれないと説明している。

減衰振動と自律振動(出所:ニュースリリース※PDF)