東京大学(東大)と東北大学は4月20日、軟X線の吸収に見られる磁気円二色性(XMCD)を用いることで、強磁性を示す合金である鉄白金の薄膜の磁性が消えていく現象を観測することに成功したと発表した。

同成果は、東京大学物性研究所(東大物性研)田久保耕特任研究員、和達大樹准教授、東北大学金属材料研究所らの研究グループによるもので、4月24日付の米国科学誌「Applied Physics Letters」に掲載される予定。

放射光施設における軟X線を利用したXMCD測定は、最近の技術革新により薄膜やナノサイズの極小試料における磁化の観測が元素別に可能になるなど、物質科学だけでなく次世代のデバイスとして期待されているスピントロニクスへの応用が期待されている。一方、スピントロニクスにおいては、電流によってデバイス内の極小部分にのみ大きな磁場をかけスピンを制御することや、超高速応答が難しいことから、スピンの制御を磁場でなくレーザーなどの光により行うことが求められている。

今回の研究では、放射光施設 SPring-8の東大物性研ビームラインであるBL07LSUにおいて、放射光軟X線を用いた時間分解XMCDの測定装置を建設し、測定を行った。測定対象には、強磁性を示す合金である鉄白金の薄膜に注目。鉄白金の薄膜は、室温で強磁性を示し、面直方向に磁化が向きやすい垂直磁化膜であるため、応用面でも期待されている。今回の測定に用いた鉄白金の薄膜は、5mm×5mmの基板上に作製されており、単結晶で膜厚は50nm程度となっている。同試料にレーザー光を照射することで、磁性が消えていく消磁という現象が起きていることを、放射光の時間分解能である約50ピコ秒で観測することに成功した。これは、光により誘起した相転移の証拠といえる。

同研究グループによると、放射光を用いた同手法は国内唯一のものであるという。元素別のスピンダイナミクスの解明を通じて、レーザーによる磁化反転現象の解明などが期待できるとしている。

時間分解XMCD測定のセットアップ。蓄積リングから発生した幅50ピコ秒程度の軟X線(青色)と幅50フェムト秒程度のレーザーを同時に試料に照射。レーザーによって引き起こされる磁化の変化を軟X線の吸収や反射から測定する。検出器はMCP(マイクロチャンネルプレート) (出所:東北大学Webサイト)