アユートは13日、Astell&Kernのデジタルオーディオプレーヤー「KANN(カン)」を発表した。現時点で発売日は未定だが、2色のカラーバリエーションのうちAstro Silverは5月中旬、Eos Blueは6月頃になる見込み。先行発表された米国では999ドルという価格が公表されており、日本国内における価格は12万円前後となる見通しだ。
発表会の冒頭では、iriverの新しいCEO James Lee氏が登壇。新製品のネーミングがドイツ語の「kann」(英語の「can」に相当)に由来することを明かしたあと、「日本市場を意識して開発した」と日本重視の姿勢を強調した。
強力な内蔵ヘッドホンアンプ
発表された「KANN」は、AK380から始まるAstell&Kernシリーズの第3世代に属する製品。AK380発表後、中心となる製品ライン(コアライン)にAK320とAK300を、AK Jr.に続くカジュアルラインとしてAK70を投入しているが、KANNは新設の「パフォーマンスライン」に分類される。1台ですべてをまかなえる豊富な機能をキーコンセプトとし、多種多様なニーズに対応することが狙いという
最大の特徴は、アンバランス出力で4Vrms、バランス出力で7Vrmsという高出力の内蔵ヘッドホンアンプだ。同じ第3世代に属すAK300シリーズ専用の外付けアンプ「AK380AMP」に迫るスペックであり、ハイインピーダンスヘッドホンも駆動できるという。確かに、1台でゼンハイザー「HD800」(300Ω)やBeyerdynamic「T1 2nd」(600Ω)を余裕で鳴らせるパワーは魅力だろう。
ヘッドホン出力は3.5mmアンバランスと2.5mmバランスの2系統を用意、3.5mm端子は0.65Ω、2.5mm端子は1.3Ωと低インピーダンス設計で、ノーマル/ハイのゲイン切り替えにも対応する。ヘッドホン出力から独立した専用ライン出力も装備、3.5mmアンバランス出力と2.5mmバランス出力が可能。3.5mmアンバランスのライン出力は、0.7V / 1V / 1.25V / 2Vrmsの4段階で出力を設定できる。結果として天面に4つのジャックが並ぶというインパクト大な絵面となったが、音質を追求しつつ1台ですべてをまかなおうというコンセプトはおもしろい。
DACチップには、旭化成エレクトロニクス「VERITA AK4490」を1基搭載。AK4490の採用は、同じ第3世代機のコアライン(AK380 / AK300)に倣うもので、シングル構成はAK300と同じだが、PCM再生が最大192kHz/24bit、DSD再生はPCM変換というAK300に対し、KANNはPCM再生が最大384kHz/32bit、DSDは最大11.2MHzのネイティブ再生に対応する。200フェムト秒という超低ジッターを実現するVCXOクロック(電圧制御水晶発振器)との組み合わせは、AK380に始まる第3世代機の音の決め手となるもので、その点ではKANNもそのアイデンティティを継ぐと考えてよさそうだ。
USB端子は、充電/データ転送用のUSB Type-Cと、USB Audio出力 / USB DAC入力 / CDリッパー接続用のUSB micro-Bの2系統を装備。外部のUSB DACへUSBオーディオ出力できるほか、PCやスマートフォンと接続しUSB DACとして使うことも可能。USB DAC出力時は、PCMが384kHz/32bit、DSDは5.6MHz(DoP)までの伝送となる。Type-C端子の存在意義を疑いそうになるが、micro-B端子とは独立しているので再生中でも給電できるところがポイントだ。
SDとmicroSDを各1基備える「デュアルメモリーカードスロット」も、KANNというデバイスらしい部分だ。省スペースなmicroSDを2スロットとせず、敢えてSDをチョイスしたところには、やはり「1台で……」という思想が見てとれる。なお、SDとmicroSDはそれぞれ最大256GB、内蔵メモリを合わせれば最大576GBまでの拡張が可能ということになるが、512GBのカードも検証中というから、合計最大容量は増えるかもしれないことを付記しておく。
いざ試聴
発表会終了後に試聴する機会を得たが、思いのほか軽い印象。約278gという重量はけっして軽い部類ではなく、きょう体がジュラルミンのAK380(約230g)と比べても重いが、きょう体サイズとアルミニウムの質感がそう感じさせるのだろう。
ヘッドホンにはbeyerdynamic「T1p」(Astell&Kernコラボバージョン)を利用したが、その駆動力は余裕のひとこと。DACに同じ「AK 4490」を採用しているためか、音のキャラクター・傾向に共通項は感じるが、低域の量感に特徴が出ている印象だ。2.5mm端子でのバランス接続ということもあるものの、明確なチャンネルセパレーションも実感できる。これだけの駆動力があるのだから、「HD800」(300Ω)や「T1 2nd」(600Ω)でも試聴してみたいものだ。