――日本では昨今リモートワークが検討されはじめた段階で、懸念点とされているのが「セキュリティ」と「勤怠管理」です。この2点、現状Todoistないしその他の企業で問題になっていますか?

早瀧氏 : 勤怠管理は全く問題になっていません。Todoistは「成果主義」ではなく「放任主義」です。細々した指示はなく、権限は私にあります。

――社員が各自裁量を持ってお仕事をされている、ということですか?

早瀧氏 : はい。Todoistのマーケティングリーダーからの僕への指示は「Todoistを日本で盛り上げてほしい。Twitterとブログを使う。あと翻訳をして」ぐらい。あと、Zendesk(※ カスタマーサービスのためのクラウド型ソフトウェア)でのサポート対応ですね。

――細かく上から指示をされるというよりは、早瀧さんが日本市場を理解していると信頼して投げている、というかたちですね

早瀧氏 : そうですね。とはいえ一応、翻訳は締め切りがあるし、サポートは48時間以内に返信をするという取り決めはあります。独立遊撃軍みたいな感じですね。

業務はUI、iTunes Storeの文言、ニュースレター、ホームページの更新が主ですね。一応、プレスリリースとブログも英語版があるのですが、翻訳してもいいし、一から書いてもOKです。ブログも、半分くらいは私のオリジナルです。

アプリのインタフェースから日本版ブログまで、Todoistに関わる日本語でのライティングはすべてひとりで行っている(写真提供:早瀧氏)

――話は変わりますが、早瀧さんはいつも旅をしながらお仕事をされているのですか?それとも、今たまたま旅の最中、というところなのでしょうか?

早瀧氏 : 後者ですね。普段はAirbnbでアパートを借りて、そこで仕事をしています。今はポーランドのホステルのキッチンでコーヒーを飲みながら働いています。

――絵に描いたようなワークスタイルですね!

早瀧氏 : 個人的には、リモートワークのデメリットについても語りたいなぁと感じます。リモートワークは経営者にとっても従業員にとってもメリットがありますが、もちろん、どちらにとってもデメリットがあります。

というのも、実は、他のメディアの原稿を見たら、僕がすごい人っぽく書かれて戸惑っていまして……。どこにでもいる、普通の根暗なんですけどね。

――例えば、どういった部分がデメリットと感じますか?

早瀧氏 : 従業員にとっては、孤独が大きいですね。また、僕は22歳まで日本で育って、就職を機に国外で働くようになったのですが、日本人は小学校からキャンプ、運動会、部活動など、グループで作業をして分かち合うのが当たり前で、少年漫画などのコンテンツもそういう路線のものが多いですよね。そういった文化がないのは、それはそれでちょっと寂しいですね。

旅行中のポーランドの写真(提供:早瀧氏)

――就職を機に国外に出られたのですね。

早瀧氏 : はい。大学卒業後にスロバキアのIBMに就職し、その後チェコの物流企業に転職しました。そのチェコの会社は在宅勤務もOKで、やるべきことをやっていれば上司からうるさく言われることもなかったので、余った時間で他のこともやってみようとfreelancer.comに登録したんです。その2年後、LinkedInでTodoistから声がかかって、今のポジションに就きました。TodoistとDigitalRiverでは契約社員的な立ち位置ですが、ほかはプロジェクト単位での受注ですね。Todoistに関して言えば、日本市場は私ひとりで見ています。

――Todoistは日本市場向けのPRもしっかり対応している印象だったので、てっきりチームで取り組まれていると思っておりました。

早瀧氏 : ありがとうございます! Todoistの広報業務の所要時間は、1日およそ1時間から2時間くらいですね。

――先ほどの「リモートワークのデメリットは孤独」というコメントについてなのですが、これは普段のリモートワークでも感じておられますか、それとも旅の間限定ですか?

早瀧氏 : むしろ、孤独だから旅をするって感じですね(笑)

私が新卒で就職活動していた時(2010年)は社畜という言葉が登場したころだったし、若気の至りで「日本で仕事は嫌だ!」って思って、海外で仕事を探しました。それから、海外就職やリモートフリーランスを経て、良い意味では「ユニークで興味深い人間」になりましたが、裏を返すと「他人と共有できるものが少ない人間」になっちゃったんですよね。今年29になったのですが、もう「働きながら旅」なんてフリーターみたいなことはやめて、結婚を前提とした彼女を作るべき歳ですね。

――海外にいても、日本の平均的なライフステージというか、常識のようなものは気になりますか?

早瀧氏 : 常識だからそうしたいというよりは、大学の友達が結婚したり、高校のバイトの先輩が子供の写真をFBに掲載したり、そういうのを見ると「うらましい!!!!!」って思います。

「働きながら旅する」という点についてうらやましがられますが、むしろ私にとっては「結婚して子供がいて幸せそうな家庭」がとにかくうらやましいですね。

――1カ所に定住するのは難しい状況なのでしょうか?

早瀧氏 : できますよ。でも、もったいないですね。だって、例えば3カ月休暇をもらったら、ワルシャワだけに3カ月もいないですよね。ほかにも行きたい国に行きますよね。

旅は楽しいのですが、それをしながらでは結婚を前提とした恋人を作ったり、ギターの練習をしたりは難しいです。ですが、欲張りなので(今の働き方と結婚を)両立させる方法を探しています。

――最後に、決まったオフィスへの通勤とリモートワーク、早瀧さんにとってはどちらが快適ですか?

早瀧氏 : いろいろ言いましたが、やはりリモートワークが快適ですね。

理論上、裁量制のリモートワークが最も理想的らしいのですが、そうすると多くの場合、冒頭でおっしゃっていたような「週に一度は顔を合わせよう」みたいなルールが出来てくると思います。

部活でも会社でも、会社の規定にはない、従業員や部員による自治ルールってありますよね。そういうルールは多数決で決まるので、そのやり方を好まない人も従わなければならなくなります。例えば、「会社の飲み会で最初に頼むのはビール」というようなことは、明文化されていない暗黙の了解(すべき論)ですよね。それが会社の利益につながるとは限らないし、それに従いたくない人もいます。

サービス残業や半強制参加の飲み会などがある企業で「裁量制のリモートワーク」を導入しても、結局は暗黙の了解が優先され、個人の裁量が尊重されないことになりそうです。なので、やはり制度やテクノロジーだけでなく、社内の文化が大きく関わってくると思います。

――ありがとうございました。

旅行中のポーランドの写真(提供:早瀧氏)