特別セッションの後、スカリー氏に個別インタビューする機会を得た。一問一答形式でその内容を紹介しよう。

――これまでジョブズなど、多くの経営者やイノベーターと一緒に仕事をされてきたと思いますが、現在の適応型イノベーターの代表例としてはどんな人物を挙げられますか?

現在、投資家、アドバイザーとして多くのプライベートカンパニーのCEOと仕事をしています。その中でインスピレーションをかきたてられるイノベーターということであれば、ゼータインタラクティブのデビット・スタインバーグがその一人です。彼は様々な企業から事業を買収し、10億ドル規模のマーケティング企業に育て上げました。

適応型イノベーターになる条件ほか20年後の世界についても言及してくれたスカリー氏

――日本は適応型イノベーターが力を発揮しにくい環境ではないかと思いますが、ご存知の範囲で日本の企業家・実業家の中で適応型イノベーターと呼べる人はいますか?

ユニクロの柳井社長を挙げます。ユニクロは機能的な素材を取り入れ、現在は世界的ブランドに発展しています。ニューヨークの5番街で最も栄えている店舗が2つあるのをご存知ですか? 1つはApple Store、もう一つがユニクロです。

また、ソフトバンクの孫正義会長も、彼が若い頃からよく知っています。

――これから起業を考える若い人たちや学生は、適応型イノベーターになるためにはどのようなことに気を配っていればいいのでしょうか。また、適応型イノベーターを見分けるにはどうすればいいのでしょうか?

まずは何よりも強い好奇心を持つことです。何にでも熱意を持って接してください。情熱に対して正直であること、インスピレーションを大切にすることです。

多くの成功した人たちと会ってきましたが、彼らが共通して言うことは、本当に大切なことは学校では学べなかったということです。実際に仕事をしてみてわかることはたくさんあります。

――あなたは30年前に現在のことをかなり正確に予見していましたが、20年後、30年後はどのような社会になっていると思いますか?

将来については非常に楽天的に考えています。今、中国、インド、アフリカ、南アメリカ、米国など、世界中で若い起業家たちと話をしています。彼らがやがて産業や政府のリーダーになるのです。彼らの資質の高さを考えれば、どんな難しい問題でも解決できると思っています。

昔、アップルのMacの開発室で、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズが大義について語っていたことを思い出します。彼らはお金のことは一切話していませんでした。彼らが語っていたのは世界をどうやって変えるかでした。ジョブズはこのとき「知の自転車」、ゲイツは「知のツール」という言葉を使っていました。彼らはパーソナルコンピュータによって、知的労働者に力を与え、世界を変えたいという崇高な大義を持っていたのです。

お金ではなく、何を解決するかを先に考えるべきです。顧客が解決策に満足すれば、お金は後からついてきます。

スカリー氏に学ぶべきこと

ジョン・スカリー氏はペプシやアップルのCEOとして多くの成功や失敗を経験してきたが、それらの体験を生かして若い起業家と協業するのが楽しくて仕方がないという感じだった。また、専門知識はなくとも、広い見識をもってテクノロジーの本質を理解し、それを誰にでもわかるように翻訳して伝えるという点においては際立って優れた人物であることも感じさせられた。

スカリー氏が提唱する適応型イノベーターというのは、新しい技術を組み合わせたり改良してまったく新しいものを作り上げる日本人に向いたスタイルだとも思われる。国内では何かと閉塞的で悲壮感が漂っているが、スカリー氏のアドバイス通り、日本人の強みをもう一度再評価し、小さな分野にとらわれず、大きな視野で市場を眺めなおしてみることで、新たな突破口が見出せるのではないだろうか。