去る9月、ソフトバンクは英半導体設計大手・ARMの買収を完了した。買収金額は約3.3兆円と、過去のボーダフォン日本法人(1.75兆円)、スプリント(約1.8兆円)を超え、日本企業では過去最大のM&Aとなった。孫氏はCEOのWarren East氏と共にARMの主要顧客を訪問する中で「買ってよかったとつくづく自信を深めた」という。

「進化の激しい業界で、そのエンジンに相当する技術について、10年分の開発ロードマップが明確にできている会社は(ARMのほかに)そうたくさんない。訪問した企業からは非常に強い関心とジョイントプロジェクトの話をたくさん頂いた」(孫氏)

スパコン「京」の次世代機開発へも採用が決定。現状弱いサーバ分野でのシェア拡大も目指す

今後は1兆規模のIoT製品やそのインフラ側となるサーバにもARMの製品が大量に搭載されると成長の見込みを示した上で、孫氏は「便利になると同時にリスクも孕む」とセキュリティの重要性も強調した。

「単に安い・早い・消費電力が少ないということだけでなく、安心安全な、暗号化されたチップであるかが大事。ARMであれば安心、という時代がこれから来る」(孫氏)

自動車を始め、暗号化されたチップの採用が「人命や国家安全保障に関わる」急務であると訴える

買収したばかりではあるが、すでに実績の上に成長を重ねているため、戦略には変更なく新技術・市場に継続的に投資していく形になる。

最後に数字を挙げたソフトバンクグループの投資資産については、アリババが2016年7-9月期の直近3ヶ月で売上高5,524億円、純利益2,099億円と大きく伸びている。しかし孫氏はこれでも「まだ収穫期ではない」と、クラウドやフィンテックへの先行投資の成熟により一層の成長を遂げることに確信を見せた。

アリババ株を「本当は一株も売りたくなかった」というのはそこが理由だが、スーパーセル、ガンホーと共にアリババ株も一部売却してまでARMへ投資したことには、より大きな理由があった。氏が折に触れて標榜する「シンギュラリティ(技術的特異点)」だ。

「どうしてもやらなくてはならない成長戦略の加速」のカギとなるシンギュラリティ

産業革命をしのぐ変革へ、攻めの構え

シンギュラリティはコンピュータの知性が人類を超えることで起こる出来事とされ、孫氏はこれにより「あらゆる産業が再定義され、再発明される」と考えている。「産業革命をはるかに超える変革」「ひとつのビジネスモデルだけでは間に合わない程の根源的革命」と繰り返す言葉は、ビジネスへのビジョンと同時に、ほとんど危機感のようなものに駆り立てられているかに聞こえる。

「多くの人が賛成するかどうかは別として、少なくとも私は今すぐ本気で取り組まなくてはいけないと思っている」(孫氏)

2045年問題とも言われるシンギュラリティだが、孫氏は「目の前に迫っている」と語る