日本からものづくりの火を消してはならない。日本企業の製造拠点が次々と海外に移転していった2000年代初頭。日本でのものづくりにこだわり、EMS事業を立ち上げ、さまざまな企業から受託製造を請け負う道を選択したOKIグループ。2002年から開始した同事業は、日本でしかできない高い技術力を武器に年々成長してきており、2015年度には432億円に達した。そんなOKIのEMS事業の中核を担う企業が山形県 鶴岡市に本拠を構える「OKIサーキットテクノロジー(OTC)」だ。

山形県鶴岡市にあるOKIサーキットテクノロジー本社・工場の外観。ここで、高度な技術が求められるプリント基板の製造が行われている

同社の従業員は約390名。2012年に田中貴金属工業のプリント配線板事業をOKIが譲り受ける形で設立され、2014年にOKIの100%子会社化され、設立時の社名「OKI田中サーキット」から、「OKIサーキットテクノロジー」へと変更された経緯を持つ。また、2016年7月には日本アビオニクスのプリント配線板事業を取得。これにより同社は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の認定のほとんどに対応できる稀有な企業へと成長を遂げる。

その経営理念は「未来に繋ぐ"ものづくり社会(日本)"への貢献」。OKIグループのEMS事業創業者で、現在はOKIの顧問を務める清水光一郎氏が掲げていた「ものづくりジャパン」という言葉から派生して生み出された理念だ。同氏は、「先端の技術開発には億単位のコストがかかる。それを1社で賄おうと思うと、資金がいくらあっても足りない。EMSとして、さまざまな企業から仕事を受けることができれば、億円単位の開発費用も顧客1社あたりの負担を減らすことができる。バーチャルファクトリーとして日本のものづくりを提供する。そういう企業が集合することで、ものづくりジャパンというチームができる」という思いを込めて、EMS事業を推進してきたと、OTCの代表取締役社長を務める西村浩氏は当時を振り返る。

OKIグループ全体としてのEMS事業の概要。OKI本体のEMS事業部でもビジネスを推進しているほか、OTCをはじめとする複数のグループ企業でもビジネスを行っている (資料提供:OTC)

そんなOTCが得意とする分野が試作品や多品種少量生産向けプリント基板製造だ。1日あたりで300種類程度は処理できるとのことで、それ以外にも、顧客が設計した回路図に対してパターン設計を行ったり、不良の原因などを探る解析・評価、部品実装など、幅広い顧客のニーズに対応する高い技術力も武器とする。そうした技術力を当てにする顧客はというと、やはり高機能・高多層といった技術力が求められる通信、計測、航空・宇宙、社会インフラ、半導体テスタ、といった産業が主流であり、日本アビオニクスの事業を引き継いだ関係から、今後、航空・宇宙には一層注力していくという。

単にプリント基板を製造するだけでなく、回路設計や解析・評価、部品実装といったさまざまな顧客ニーズに対応できる技術も提供することで、より高い品質の製品を提供することを可能としている。そのため、受注の形態も、単にがーバーデータを受け取ってプリント基板を製造するのではなく、設計から請け負ったり、製造されたプリント基板の解析・評価を請け負ったり、と幅が広い (資料提供:OTC)

また、顧客ニーズに対応する新技術の開発も余念がない。これから本格的に提供を開始しようというのが、銅コインを基板に埋め込むことで、熱を基板上部から下部に逃がす「大電流/放熱配線板」だ。500μmの銅箔を基板内に入れるという対応も行っているという。また、接続を少なくしたいというニーズに対応した2~8層対応のフレックスリジット配線板やカメラを活用することで高精度な高周波コネクタを実現できる「端面メタライズ」といった技術も注目を集めている。将来的なニーズへの対応もさまざまな技術に対するロードマップを描き、狭ピッチ化やコアレス化、次世代基板対応、400Gbps以降の高速通信への対応といった取り組みを着実に進めている。

「大電流/放熱配線板」を実現する銅コイン。これをプリント基板に埋め込むことで、熱を基板の上部から下部に逃がすことが容易となる

さらに、単なるプリント基板の性能が良い、というだけでは同社のサービスは終わらない。プリント基板の製造では、顧客からもらった基板データを一度、CADで編集する必要があるが、特急料金が発生するものの、最大5時間でデータを受け取ってから製造に回すサービスも24時間対応で提供している。これまでの最短は4時間弱ということで、サービスが掲げる時間よりも高速対応を図ることに成功している。