海洋調査研究における産学連携のマイルストーンに
だからこそ、GWF-D1000を取り付けることに意味があると、東京海洋大学 海洋電子機械工学部門 助教の後藤慎平氏は語る。
後藤氏「実際の海底も砂ばかりで、ROVが向いている方角がすぐにわからなくなってしまいます。したがって、こういったセンサーデバイスの搭載は必須です。ただ、私たちが研究しているような教育用の小型ROVには、本格的で高額なセンサーデバイスを搭載するのは予算的にも、またスペース的にも難しい。
そこで悩んでいたところ、偶然カシオさんをご紹介いただく機会がありまして。このお話をしたら、ちょうどGWF-D1000がリリースされるタイミングだったこともあり、ご協力をいただけたのです」
このGWF-D1000、実はROV搭載用に一部が改造されているという。計測機能だ。
製品版は深度や方位を計測する際、連続して計測できるのは最大20秒間だが、改造版では電池が続く限り(約3時間)、計測を続けられるという。カシオ計算機 時計事業部 モジュール開発部の牛山和人氏が、簡単な仕組みを教えてくれた。
牛山氏「カシオの腕時計製品は、以前は後からプログラムを書き換えることができない『マスクROM』を使用していたのですが、GWF-D1000など最近の製品では、データを書き換えられる『フラッシュROM』を使用しています。センサーの制御プログラムを書き換えれば、今回のようなカスタマイズもできるのです」
GWF-D1000が計測できる水深は、最大80m(防水機構は200m)となっている。この条件下で、GWF-D1000を装着したROVには、どのような活用法が想定されるのだろうか。
後藤氏「私たちが手がけている海洋教育用のROVはもちろん、水中遺跡の調査などにも使えるでしょう。遺跡調査では、とにかく位置と方角が重要です。位置については船のGPSでわかりますが、ROVが向いている方角はROVに搭載されたコンパスでしかわかりません。
それが(改造しているとはいえ)こんな小さな腕時計で実現できてしまう。しかも、設置角が水平でなくてもいいんです。つまり、前方を向いているROVのカメラに、そのままダイヤルを写し込めるんですよ。今までは、コンパスが水平でなければならなかったために、コンパスを写すための下向きのカメラを別途用意しなければなりませんでした。この差は大きいですね」
ほかにも、腕時計ならではの高い装着性(バンドでバーに装着し、さらに結束バンドで固定)や、激しい水流に当たっても安心なG-SHOCKの堅牢性、電波時計ゆえの正確さと時刻合わせのしやすさ、ソーラー駆動の充電の手軽さなどが大きなポイントだったという。
後藤氏をはじめとするチームは7月、GWF-D1000を実際のROVに搭載しての実証実験を富山湾で行ったが、その結果もほぼ期待通りであったとのことだ。
ご自身、昔からの熱心なカシオファンで、G-SHOCKやPRO TREKも「見る人がちょっと引くくらい持ってます(笑)」と語る後藤氏。その柔軟な発想と行動力にカシオの開発力が加わり、教育用ROVの開発は大きな推進力を得たといえるだろう。多くの分野で産学連携の必要性が唱えられる昨今、この事例が海洋調査・研究におけるひとつのマイルストーンになるかもしれない。