レノボ・ジャパン 取締役副社長 内藤在正氏

レノボ・ジャパンは6月30日、大和TechTalkと題して、ThinkPadのイノベーションを支える開発研究に対する取り組みを説明した。

まずはレノボ・ジャパン 取締役副社長の内藤在正氏が挨拶。IBM時代は(旧)大和研究所でワールドワイド向けのThinkPadを設計していたが、現在レノボは、みなとみらいの山と研究所と米沢事業所の日本サイトのほか、北京と米国でもPCの開発を行っている。

初代ThinkPad「ThinkPad 700C」の登場からおよそ四半世紀が経過し、IBM時代を知らないエンジニアも多くなったが、Thinkpadを生み出す「理念」はいまでも継承しているという。また横浜と米沢がJAPAN TEAMとしてLenoovブランドのPCを支えるテクノロジーをけん引する存在になるとした。

現在のThinkPad開発部隊はPCSD(PCとスマートデバイス)に所属する

2012年以降は第5世代ThinkPadとして2in1モデル多様化に対応しつつ、クラムシェル製品も進化させている

今後も新たな技術を積極的に取り入れThinkPadらしさを追求し、信頼されるビジネスツールを目指す方向性はブレない

ThinkPad開発理念を世界の開発拠点で共有する「ThinkPad開発哲学の木」

レノボ・ジャパン 大和研究所 ソリューション開発部 システムデザイン戦略 エンジニアの山崎誠仁氏

次にレノボ・ジャパン 大和研究所 ソリューション開発部 システムデザイン戦略 エンジニアの山崎誠仁氏が「ThinkPad開発哲学の木」として、大和研究所で培われた理念を世界の開発部隊に広げる取り組みを紹介。ThikPadは堅牢かつ安全性の高いビジネスPCとして生まれた一方、デバイスも生活スタイルも変化しつつある状況で、いかに原点からブレずにPCを開発できるのか、ということでThikPad開発哲学の木を考え出したという。

ThinkPadの開発には土台と目指すものが必要であり、前者はお客様のニーズとイノベーションや技術の種が、後者はユーザーの生産性を上げるという目標である。そしてそれらを繋ぐのがThinkPadの開発哲学で「信頼される品質」「親しみやすさ」「先進性」を軸とし、エンジニア一人一人がその専門分野において、具体的な意味に置き換え、作業を進めるうえでこれらの原点に合致するのかを見極める事が大切であると説明した。

「大和研究所」で受け継がれた哲学を世界のサイトに広げ、揺るぎない哲学としてエンジニアに再確認するというのが狙い

ニーズや技術を吸い上げて、ThinkPadとしての哲学で育てた製品を世に送り出すというのが木に例えている

専門エンジニアが今やっている仕事がThinkPadの哲学に沿っているのか、原点を認識して自らの言葉で語れる理解が重要だという

新しいユーザー体験を生み出すための「WOW+キャンペーン」

レノボ・ジャパン 大和研究所 STIC 先進技術開発 アドバイザリーエンジニアの川北宏司氏

新しいユーザー体験を生み出すための活動「WOW+キャンペーン」をアドバイザリーエンジニアの川北氏が説明。ユーザーが「WOW!」と言ってもらえるような体験を生み出すため、現在年3回行っている活動で、ユーザーが困っている「ペインポイント」を見出し、その解決ができるような提案を行う。

以前、レノボは「PC+」という戦略を打ち出し、PCやタブレットをシーンに応じて使いこなすということを提唱していたが、このときも「WOWキャンペーン」として年1回アイディアの発掘を行っていた。これが「WOW+」として進化。現在はさまざまなデバイスやサービスを連携して活用する「PC&スマートデバイス時代」となり、新しいユーザー体験を提案するものへと回数も増やして実施。新人研修としても組み込まれているだけでなくNEC PCとの協業も行っているという。

この活動として実際の製品に生かされた実績としてはThinkPad X1 Carbon/X1 YOGAで使われたインテリジェント・センシング・エンジンや画面表示に書込みやメモをおこなってアイディアをシェアする「WRITEit」があるほか、実用化に至らなくても特許を取得して知財としての活用しているという。

イノベーションを生み出すための4つ目の柱としてWOW+が位置づけられている。技術者でもお客様のペインポイントを理解して解決策を生み出す

もともとは年1回のアイディア発掘だったのが、年3回に増え、より具体的な解決策の提案。そして新人研修やNEC PCとの協業へと発展した

実際の採用実績。インテリジェント・センシング・エンジンを他のThinkPad全体に広げるかという質問に関しては各種のセンサーを必要とするので必ずしもYesではないという

採用には至らないアイディアでも、特許取得に繋がったものもあり知財貢献

日本の技術力が問われる?! ThinkPad X1 Carbonにおける新技術の紹介

レノボ・ジャパン 大和研究所 STIC 先進技術開発 部長/ディレクターの互井秀行氏

最後に先日発表されたThinkPad X1 Carbon/ThinkPad X1 Yogaにおける技術チャレンジに関してレノボ・ジャパン 大和研究所 STIC 先進技術開発 部長/ディレクターの互井秀行氏が説明。

X1シリーズは薄型軽量化のトレンドの中、登場した製品だ。2011年に登場した「ThinkPad X1」は既存のThinkPadよりも薄型軽量となったが、それでもまだまだやれることがあるとして、すぐに次世代機の開発に着手し、生まれたのが2012年のThinkPad X1 Carbonだ。これをベースとして世代を重ねてきた。

2015年の第3世代ThinkPad X1 Carbonでやれることはやりつくした感があったというが、「ワールドワイド、特に北米では2.5ポンド(1,130g)以下の製品を求めている」との要求が来たため、これまでから設計を大きく見直したという。

17.7mm、1.31kgで完成したかに見えたX1 Carbonだが、2.5ポンドという課題が突き付けられたという

キーボードに関してYOGAにはLift'n' Lockキーボードを採用。将来はYOGAスタイルを採用する全モデルに? という問いには「コンシューマー向けの場合は軽量薄型を重視するニーズから全部は無理」とのことだ

ThinkPad X1 Carbonは、軽量化のためにカーボンファイバーを利用したので、筐体部分の軽量化のためには構造素材から見直さなければならない。NEC PCのLavie Zで使用されているマグネシウムリチウム合金も検討されたが「ワールドワイドに向けたThinkPadで使うには供給量が足りない」ということで、マグネシウム合金にレアアースを加えたスーパーマグネシウム合金を採用された。

レアアースを加える事で強度を上げ、流動性も向上させたことで更なる軽量性を実現したスーパーマグネシウム合金

これによって筐体最薄部厚を0.8mmから0.5mmへと薄型化。キーボードフレームとボトムカバー共に100g以上あったものをどちらも90g台にして3/4の重量削減が行えたという。しかしこの薄型筐体は、捻じれ対策など非常にサプライヤー泣かせの設計だったようだ。

X1 YOGAの裏蓋を開けたところ(電池も外してある)。特にボトムカバーにハニカム状の模様が見えるが、これは捻じれ剛性を上げるため。この部分は0.8mm厚になっているそうだ

キーボードにかかった水分を排出するための「雨どい」。水の出口はスピーカーグリルの奥にあるので、筐体を見てもここから水が出るとはわからないようになっている

熱設計に関しても、ThikPadのデザイン性を損なわずに放熱性を上げるべく、第9世代のふくろうファンや場所によってフィンの高さを変える階段フィン、放熱性の高い外部塗装に加えて、センサーを活用して利用状況を自動判断して冷却・速度を変更する「インテリジェントクーリング」を採用したという。

熱設計に関してはファンの構造変更とフィンの抵抗を最適化。塗装も放熱性を更に上げるものに変更。そして、ユーザー利用環境を検知するインテリジェントクーリングを採用した

CPUクーラーのフィン部分のアップ。空気抵抗の差を加味して中央右部分だけフィンが厚くなっているのがわかる。本体のスリットを大きくするというのはデザイン上却下されたそうだ

センサーを活用するというインテリジェント・センシングもたとえば「手に持って歩いている」と判断すれば自動的にディスプレイをOFF、逆に閲覧状態と判断するとディスプレイOFFにせずに快適に閲覧することが可能にするなど、ユーザーの動きに合わせて自動的にデバイスの動作を変える。これは前述した「WOW+キャンペーン」から誕生した機能だ。

ユーザーによりそうインテリジェント機能も増やし、より快適かつ不要な電力消費を抑えている。検出方法の開発でセンシング間隔を抑えてセンシングの消費電力も抑えたという

最後に製品発表当初から予告されていたものの、発売時期が未定だった有機ELディスプレイ搭載ThinkPad X1 Yogaについても言及。有機ELは高い色再現性や完全黒の高いコントラスト、高応答性が魅力な一方、焼きつき問題や明るいと消費電力が高いという問題がある。

X1 Yogaで新たに投入されるOLEDモデル。有機ELには色再現性や高コントラスト、高速応答というメリットがある

一方で、有機ELには焼き付きと高消費電力という難点がある。今回、前者に関しては表示時間に合わせた補正をパネルに入れ、後者は輝度が高くなると抑える機構で軽減している

またLenovo SettingにOLED向けの機能を実装して、快適性と省電力性、経年劣化軽減を行った

そこでディスプレイ内で表示時間をチェックしてその補正を加えたり、明るすぎる表示は意図的に輝度を落として省電力を図る。また、Lenovo Settingに有機ELに合わせた7種類の色空間設定や、焼き付きの原因になるタスクバーや不必要なバックグラウンドウィンドウの輝度を抑えるという工夫が施されている。有機ELディスプレイ搭載モデルに価格は税別323,000円からで、発売時期は「今夏」と公表された。

有機EL搭載モデルの仕様が固まったということで、発売時期と予価も発表。やはり通常の液晶ディスプレイ搭載モデルと比較して値段が上がる

3世代のThinkPad X1 Carbonとの比較