そこで出てくるのが冒頭の4つの弱みである。その4つは「Time to Designが長い」、「日本半導体のシェアが低い」、「イノベーションを生み出すベンチャーや研究機関などが少量の部品を購入することが難しい」、「技術者のオタク化が進んだことによるセット側と部品側の接点の減少」だという。中でも最大の問題はTime to Designが長い点にある。製造工程のリードタイムの短縮については「Kaizen」という言葉に代表されるように世界一といえるが、実は設計の時間についてはほとんど考慮されておらず、エンジニアがすべての部品を入手しようと思えば、1カ月程度かかることもざらだという。「製品の販売までのリードタイムを短縮できれば、それだけでも付加価値を高めることができるのに、設計期間の短縮のために購買を簡略化するといった取り組みはそれほど多くない」(横氏)。

こうしたすぐに入手できない、もしくは入手しにくい、という話は、2つ目の半導体のシェアや3つ目のベンチャーの話題にもつながっている。国内の半導体メーカーが強ければ、地の利を活かして新製品をすぐに入手することも可能かもしれないが、強い半導体メーカーが減っている現状、そうした製品は必然的に海外メーカーのものを入手せざるを得なくなってくる。確かに、半導体商社はいくつも存在しており、各社の製品を取り揃えてはいるものの、「すべてのメーカーを一括して入手できる商社があるかと言えば、そうともいえない」(同)というわけであるほか、ベンチャーなどが試作品や少数の製品を作ろうと思っても、そうした商社は少数出荷に対応していないことが多く、やはり入手に難が出てくることとなる。また、部品メーカーの営業担当者にサンプル提供を呼びかけても、基本的には社内の複雑な手続きを経る必要があり、よほどの事情がない限り、即座に提供する、といったわけにはいかない、という事情もあるようだ。

日本の地域や企業が抱える問題。製造のリードタイム短縮は世界一だが、設計期間が長く、その理由も部品調達に時間がかかる、といったことも含まれる。また、少量を入手しようと思った場合、メーカーが直に販売しているわけではないため、やはり入手に手間が必要となるといった課題もあるという

そしてエンジニアのオタク化だが、これは洋の東西を問わない問題のようで、人と直接会ってコミュニケーションをとるのではなく、Webを介しての接触などが増えているという。何が問題かというと、「対面コミュニケーションを好まない傾向が強く、部品メーカーの営業に会ってくれない。彼らは接触そのものを好まない」という状態であり、部品メーカーからすれば、手の届かない潜在顧客となってしまうという。

そんな彼らだが、部品の発注もWebを介して行うことになる。そうした行動について同社も把握しており、Webでのコミュニティの構築や、部品の使い方や選び方、回路デザイン、仕組みに関する説明といった情報も提供することで、彼らとの接点を増やしているほか、部品メーカーに代わって、そうしたユーザーに対する販売マーケティングなども行っており、「うまく活用してもらえば、これまでアプローチしにくかったユーザーに対しても、有効な営業が可能になる」(同)とする。

また、似たようなビジネスモデルは複数社が採用しているが、「Mouserは新製品の提供にフォーカスし、研究開発や試作といった段階の人たちにそれを提供することを目標としている」と、他社との違いを強調。「そうした点も含め、ビジネスモデルも決して、電子部品を売っているのではなく、時間を売る、利便性を売る、という観点。新製品をいち早く手に入れ、それを1日でも1週間でも早く市場に提供したときの価値はどれほどのものか。そうした価値を提供するものがMouserだ」とする。

Mouserがメインの対象としているのは量産よりも左の設計・開発といった部門であり、一般的な半導体商社などとは客層が異なる

MouserのAPACおよびEMEA業務担当シニアバイスプレジデントであるMark Burr-Lonnon氏

「日本法人が本格的に立ち上がり、多くのエンジニアが活用してくれるようになれば、セットメーカーに対しては、新製品の立ち上げを1カ月早めることを可能とする現実解を提供できるようになる。一方、部品メーカーに対しても、これまで手の届かなかった潜在顧客を効率的にカバーすることが可能になるほか、地域や市場に応じたマーケティングテストなども活用することが可能になる」と、横氏は日本地域での展開が日本のエレクトロニクス産業そのものの活性化につながることへの期待を覗かせる。

なお、日本法人のトップ人事については、「現時点で数人に絞っている。最終的には日本の文化を良く理解している日本人が就任することになると思う。正式な発表は7月になるだろう」(Mark Burr-Lonnon氏)としており、そのときが来たら改めて、発表を行う予定だとしている。