契約者の"質"が重要に

次に決算報告のプレスリリースを参照してほしいが、スプリントの契約者数の推移を見るうえで「ポストペイド(Postpaid)」「プリペイド(Prepaid)」「ホールセールアンドアフィリエイト(Wholesale and Affiliate)」「チャーン(Churn)」の4つを重要なキーワードとして挙げておく。

ポストペイドは毎月利用料金を後払いするタイプの契約で、これが携帯キャリアのビジネスの基本となる。次がプリペイドで、ポストペイドと違って月額契約方式ではないため一定収入を得にくく、あらにARPUが低めに出やすいという傾向があるが、全体に料金が安めでユーザー数を獲得しやすいメリットがある。「ホールセールアンドアフィリエイト」というのはスプリントの特徴的なビジネスで、これは「M2M」や「MVNO」などスプリント回線の又貸しビジネスだ。伝統的に、この比率が他のキャリアに比べても高いのがスプリントの特徴で、仮にプリペイドの契約数と合算すれば全契約数の4割近くに達し、トータルとしてのポストペイド契約を圧迫してARPUを引き下げる要因にもなり得る。

5月10日のソフトバンクの決算会見でのスライドでも、ポストペイド契約が増加したことを孫氏は強調していたが、FY2015通年でポストペイド契約数が124万5000伸びる一方で、プリペイド契約数は130万9000減少している。つまりポストペイド+プリペイドの合算では逆にマイナスとなっているわけだ。

5月初旬に行われたスプリントの2015年度第4四半期(2016年1~3月期)決算決算で発表された最新のユーザー動向。ポストペイド契約数が大きく伸びている

米4大携帯キャリアでのポストペイド契約の純増数の推移を比較したところ。純増数でAT&TとVerizon Wirelessを同時に抜くのは初だという

米Nielsenが出している全米主要都市での4大携帯キャリアでのLTEダウンロード速度比較。具体的な計測方法や縦軸の数値は不明だが、「スプリントが最もネットワーク品質が高い」と説明する孫氏の根拠になっている

それでも先ほど契約者数全体が伸びているのは「ホールセールアンドアフィリエイト」の増加分に由来する。つまりプリペイドの顧客を捨ててでも、収益が安定しやすいポストペイド獲得を優先している状態だ。

また米国では携帯キャリア同士が互いの顧客を引き抜くためのキャンペーンが熾烈化していることでも知られているが、こうしたキャンペーンにつられる形での顧客流出が同時に問題となっている。この解約率を「移り気な顧客」と意味を込めて「チャーン」と呼ぶが、このチャーンをいかに引き下げるかが各キャリアにとって悩みの種だ。そしてスプリントは、近年の同社としては初の低水準となる1.61%をFY2015に達成している。黒字化の話と合わせ、このあたりが孫氏のいう「V字回復」の根拠となっているのだろうと推察する。