Web VS. アプリ、生き残るのは……

だからといって、Googleはネイティブアプリを否定しているのではない。これまではネイティブアプリとWebアプリの長所と短所が異なり、どちらがより優れているかという議論があった。でも、アプリがWeb機能を取り込み、一方でWebアプリはネイティブアプリの機能や操作性を実現し、アプリとWebがお互いに短所を埋め、長所を伸ばそうとしている。

Ficus Kirkpatrick氏(エンジニアリングディレクター)は「(Webかアプリ)どちらかだけが生き残るというのは大げさな考え方だと思う。どちらも良くなっており、境界は本当にあいまいになっている」と述べ、「どのようなプラットフォームにも素晴らしい体験をユーザーと開発者に提供することが重要である」と断言した。

Webアプリでなければ埋められない利用ケースがあれば、逆にアプリが使いやすいプラットフォームやアプリの方が適した用途では、Webの長所を取り込んだアプリの方が効果的だ。今回のGoogle I/Oでプレビュー版の提供が発表された「Android Instant Apps」が、まさにそれである。ユーザーは端末にアプリをインストールすることなく、アプリに関連付けられたURLをタップするだけで、モジュール化されたアプリのパーツをダウンロードして実行できる。

「Android Instant Apps」。メッセージで送られてきたBuzzfeeed VideoのURLをタップすると(左)、Buzzfeed Videoのモジュールがダウンロードされ、アプリをインストールすることなくすぐに再生開始(中)。Android Instant Appsからアプリのインストール・リンクを表示できるので、アプリのマーケティングにも利用できる(右)

これまではディナーの場所を決めるために、Google検索でレストランを調べ、Hangoutで友達に連絡し、OpenTableで予約をするというように、いくつものアプリを切り替えていた。それがアプリとディープリンクした検索やAIを活用したスマートメッセンジャーで簡単に行えるようになる。いずれスマートフォンを取り出してアンロックすることなく、Google HomeやAmazonのEchoのようなアシスタントデバイスと会話するだけで作業を済ませられるようになるだろう。しかし、会話型のアシスタントが勝者になるのではない。Eコマースの主流がモバイルに移っても、デスクトップWebが大きな売上を維持し続けているように、将来Google assistantが広く使われるようになっても、これまでのようなアプリも使い続けられるだろう。デスクトップからモバイルへ、さらにIoTやAIへとWebは移っているのではなく、Webの可能性が拡大しているのだ。そしてWebの本質は、今も昔もこれからも変わらない。

Google I/Oが始まる直前にDion Almaer氏(エンジニアリングディレクター)がMediumで「Google I/O: Return of the Web!」という記事を公開した。その中で同氏は「2016年は1歩下がって自分の可能性を見つめ直し、Webに再投資する年になる」と述べていた。その言葉がそのまま、今年のGoogle I/OにおけるGoogleから開発者やパブリッシャへのメッセージになる。