穏やかな語り口のvon Tetzchner氏

――Vivaldiでは、ブラウザのエンジンに「Blink」を利用しています。Operaでは独自の「Presto」がありましたが(注3)、将来的に独自のブラウザエンジンを開発する予定はありますか?

von Tetzchner氏: 歴史をみると、ブラウザエンジンは多くはありません。Appleがブラウザ「Safari」を開発したときはKDE Projectのエンジンを利用し(注4)、Googlも自分たちのブラウザでAppleのエンジンを利用しました(注5)。ずいぶん長い間、新しいブラウザエンジンは登場していない。スクラッチからエンジンを作成するのは現実的ではないからです。

ブラウザエンジンを過去に開発した経験から言えますが、最初から開発することは巨大な取り組みとなります。きちんとしたチームが必要で時間もかかります。現実的とはいえません。(新しいブラウザエンジンを開発するよりも)我々が成長する過程で、もっとBlinkに貢献をしたいと思っています。

注3:Prestoは2013年にリリースされたOpera 12まで採用されていた独自のレンダリングエンジン。Operaはその後、レンダリングエンジンをBlinkに切り替えている
注4:Safariで採用されているWebKitは、KDEプロジェクトのレンダリングエンジンKHTMLがベース
注5:Googleは2013年にBlinkの開発に着手するまで「WebKit」を利用していた

ブラウザエンジンはバージョン情報で確認できる。最新版の1.1.453.59では、Blink 537.36が採用されている

――モバイルバージョンは現在開発中とのことですが、登場はいつ頃でしょうか。他のモバイル向けWebブラウザとの差別化も教えて下さい。

von Tetzchner氏: モバイル版は、まずAndroid向けからスタートすると思います。iOSはAppleの制約で難しい部分があるので、まずはAndroidにリソースを注いでいます。差別化は(デスクトップと同じように)たくさんの機能がある点になります。

デスクトップ版のVivaldi 1.0リリースに向けて、今までスタッフ全員がデスクトップ版にフォーカスして作業してきました。今後はモバイルにリソースを振り分けますが、時間がかかります。公開は2016年中は難しく、2017年以降になりそうです。

――スマートフォンの画面はPCより小さいですが、「多機能」や「使い勝手の良さ」といった特徴をどう実現しますか。

von Tetzchner氏: 我々はOperaの頃からモバイル向けブラウザを作っていますが、当時の画面サイズは小さかった。(2005年に初公開した)「Opera Mini」のときと比べると、現在のモバイル端末の画面は大きくなっています。スマートフォンのうち半分ぐらいが5インチ以上の画面サイズで、解像度も高い。

当時と状況は大きく異なるので、インプットメソッド(入力システム)など考えることはたくさんありますが、スマートフォンのブラウザで期待されていることを実現し、機能を拡大できると思います。

――Webブラウザでのプライバシー(ユーザー動向のモニタリング)には懸念もありますが、Vivaldiではプライバシーをどう捉えていますか?

von Tetzchner氏: ある意味で、プライバシーは数年前に死んだといえます。以前、人々はプライバシーにもっと関心を持っていましたが、モニタリングされているという状況に慣れつつあります。政府が我々への監視を強めていることを受け入れています。それでも、いまでもたくさんの人がプライバシーを気にしているし、プライバシーは重要なファクターだと考える人もまだまだいます。

現時点でVivaldiはプライバシーに積極的に取り組んでいるとは言えません。ですが、我々はユーザーのモニタリングはしません。ブラウザーベンダーの中には、ユーザーがどの機能を使っているのかチェックしているところもありますが、それもしません。社内で話し合った結果、ユーザーが何をやっているのか、どんな機能を使っているのかをチェックしたくない、という結論に達しました。

――他の主要ブラウザが機能を削ぎ落としてシンプル化するのに対し、Vivaldiではオプションにより機能をリッチに、パワフルにする方向性をとっています。このアプローチに同意できる人もいるでしょうが、与えられたものを使うという状況に慣れている人も多い。「自分の使い方に製品を合わせる」ことを、どうやって啓蒙していくのでしょうか?

von Tetzchner氏: 口コミです。我々がやっていることを理解してくれる人が一定数に達すると、次はこの人たちが自分の友人に伝えてくれます。そしてその友人が、自分の友人に伝える……こうやってリーチします。

我々は、資金が潤沢にあり、マーケティングのパワーがある大企業と競合しています。これら大企業に対抗できる唯一の方法は、友達に伝えたくなるような製品を開発して提供することです。

――楽観的にも聞こえますが……(笑)

von Tetzchner氏: 以前Operaでやったことです。Operaはブラウザ事業として成功した企業だと誇りに思っています。月間ベースで3億5000万人のアクティブユーザーがいますが、多くが口コミで知った人たちです。つまり、エンドユーザーにフォーカスし、エンドユーザーが望むものを提供するという方法はうまくいくのです。